相手の心を動かしたいなら5つの障壁を取っ払え!カタリストの思考法

 THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術」っていう本を読みまして、面白かったので内容をまとめてみたいと思いまーす。

これは、ペンシルベニア大学ウォートン校のマーケティング教授であるジョーナ・バーガー博士の著書で、化学の「触媒(カタリスト)」のように、「相手に無理な圧力をかけることなく、行動を阻む障害(ボトルネック)を取り除くことで自発的な変化を促す」という新しい説得のアプローチを解説したもの。

「どれだけメリットや根拠を説明しても、部下が動いてくれない」 「良かれと思って提案したのに、上司やクライアントに却下された」といった悩みは、ビジネスでも日常でも直面している人は多いはず。こうした「相手が変わってくれない」という課題を、力を加えるのではなく、障壁になっているものを見つけて取り除いてやろう、というのを提案してくれています。

人は押しても変わらない

まず博士は、私たちは無意識のうちに、人はこれまでの習慣や現状を維持しようとする「慣性の法則」に従って生きているとおっしゃっています。

ご存知の通り、「慣性の法則」とは、物理の世界で「止まっている物体は止まり続け、動いている物体は同じ速度で動き続けようとする」性質のことです。これは人間の心理でも同じで、「人は一度覚えたやり方や、現在の居心地が良い状態(現状)をそのまま維持し続けたいと考え、新しい変化に対して無意識に強いブレーキをかけてしまう」という現象を指します。つまり、人が変わらないのは、その人の性格が頑固だからではなく、人間の心理に強力な「慣性の法則」が働いているからってことですね。

多くの人は、この慣性の法則を打破して相手を動かそうとする時、以下のような行動をとりがちではないでしょうか。

  • 膨大なデータやエビデンスを並べ立てる

  • 変わることのメリットを熱弁する

  • 情熱やエネルギーで押し切ろうとする

しかし、これらの手段はほとんどが逆効果に終わります。人は「押されたら、押し返したくなる生き物なので、言われたらやらない、Aと言われたらBを選んでしまうものなのです。

ここで重要になるのが「カタリスト(触媒)」という考え方です。 化学の世界における「触媒(カタリスト)」とは、「それ自体は変化しないが、他の物質の化学反応のスピードを劇的に早めたり、反応を起こしやすくしたりする物質」のことです。 通常、化学反応を起こすには、分子同士を激しく衝突させるためにエネルギーを大量に加える必要があります。しかし、ここで「触媒」は分子同士を衝突させる成功確率を上げてくれる働きがあるので、無理にエネルギーを加えなくても、安全かつ一瞬で反応が進むようになるのです。

この考え方をコミュニケーションにも応用しようぜ!というのが博士の主張で、人が変わるために必要なのも、このカタリストの働きです。「どうやって熱を加えて変えるか(押すか)」ではなく、「何が変化を妨げているのか(障害という壁を引き下げるか)」に目を向ける必要があります。

変化を阻む「5つの障壁:REDUCE」

人が変化を拒むとき、そこには必ず原因となる障害が存在しますが、この変化を妨げる障壁は5つに分類されます。それぞれの頭文字をとったフレームワーク、「REDUCE」を見てみましょう。

  1. Reactance(心理的リアクタンス:強制への反発)
    自由や選択肢を制限・強制されると、反発し、あえて逆の行動を取りたくなる心理現象です。
    親から「勉強しなさい!」と言われた瞬間にやる気がなくなったり、「絶対に買わないでください」と言われると逆に中身が気になってしまうのがこれにあたります。

  2. Endowment(保有効果:現状への執着)
    自分が一度手にしたモノや現状に高い価値を感じ、それを失うことを過剰に嫌がる心理的傾向です。
    フリマアプリで自分の不用品に相場以上の高値をつけてしまったり、無料トライアル期間が終わったサブスクを「解約するのがもったいない」と感じてそのまま継続してしまう行動に現れます。

  3. Distance(心理的距離:受け入れがたい格差)
    提案や変化が自分の現状・常識から離れすぎていると、格差やギャップの大きさから受け入れを拒絶してしまう現象です。
    たとえば、運動習慣ゼロの人に「明日から毎日10km走ろう」と提案しても現実味がなくて挫折したり、普通の会社員に「1億円の投資案件」を勧めても怪しまれて終わるようなケースです。

  4. Uncertainty(不確実性:未知への恐怖)
    未来の予測がつかない「未知の状態」に対して、強い不安や恐怖を覚え、現状維持を選びがちになる心理です。
    現在の職場に不満があっても「転職先がもっとブラック企業だったらどうしよう」と一歩踏み出せずにいたり、入ったことのない名店より、味が予想できるいつものチェーン店を選んでしまうのが具体例です。

  5. Corroborating Evidence(補強証拠:証拠不足による迷い)
    新しい行動を起こすために必要な、他者の成功事例や客観的データといった「背中を押してくれる確かな証拠」のことです。
    たとえば、どれだけ店員に勧められても買わなかった家電を、ネットの口コミレビュー(サクラではない本物の声)をいくつも読んで初めて「よし、買おう」と決断できるのは、この証拠が集まったからです。

カタリストとして最も重要な仕事は、この中から「今、目の前の相手にとって最大の障害になっていることは何か」を見つけ出し、ピンポイントで介入することです。相手を変えたいなら、まずは「相手の理解」から始めなければなりません。

では、具体的にどうやって相手を阻む「障害」を見つけ出せばいいのでしょうか? そのための強力なツールが、次に紹介する「フォースフィールド分析」です。

根本原因を暴くフォースフィールド分析

この分析手法は1950年代に社会心理学者のクルト・レヴィンによって開発されたもので、変化を「後押しする力(推進力)」と「抑え込もうとする力(抑制力=拘束具)」のバランスとして捉え、行動を妨げる根本原因を探す方法です。

現在、動かしたい相手がいる場合は、以下の4つのステップを試してみてください。

ステップ1:変化のゴールを定義する

まずは、最終的に「どんな状態になることを望むのか」「どんなことが起こってほしいのか」を具体的に決めます。

  • 上司が新規プロジェクトを承認し、予算をつけてくれる状態

  • 親戚が他人の悪口を言うのを止め、穏やかに会話している状態

  • 部下が指示待ちを止め、自発的に週次の改善提案を出してくる状態

  • クライアントが他社への乗り換えを止め、自社との契約更新に合意してくれる状態

  • チームメンバーが個人の売上だけでなく、全体の進捗管理ツールへ毎日進んで入力してくれる状態

ステップ2:変化を促進してくれる要素(推進力)を探す

個人でも組織でも、相手の内側、あるいは外部に「変化を後押ししてくれる要素」が必ず眠っているため、それを探し出します。

  • クライアント自身が掲げる中長期ビジョンと、今回の提案内容が合致している(内的な要素)

  • このプロジェクトが成功すれば、上司自身の社内評価や昇進、部署の利益につながる(外的な要素)

  • 対象の部下自身が「いつかはリーダーになりたい」「成長したい」という強いキャリア志向を持っている(内的な要素)

  • 業界全体でデジタル化(DX)のトレンドが急速に進んでおり、世間的な危機感が高まっている(外的な要素)

  • チーム内に1人だけ、すでに新しいやり方を実践して好成績を収めている優秀なメンバーがいる(内的な要素)

ステップ3:拘束具(抑制力)を見つける

これが最も重要なステップで、変化を力ずくで押さえつけている「ブレーキ」を探します。 ブレーキを見つけるポイントは、未来ではなく「過去と現在」に目を向けることでして、「どうすれば変わってくれるのか?」ではなく、「なぜ、彼らはこれまで(そして現在も)変わっていないのか?」を考えます。

  • 1年後のプロジェクトの先行きや費用対効果が予測できず、失敗した際のリスクを恐れている(不確実性)

  • 現場が慢性的な人手不足を懸念しており、これ以上新しいタスクやツールによる仕事を増やしたくない(保有効果)

  • 過去に似たような新規施策に挑戦して失敗したトラウマがあり、新しい挑戦に強い拒絶反応がある(心理的距離)

  • 上司や周囲から「無理に変われ」と命令口調で言われたことで、自分の裁量権を奪われたように感じて反発している(心理的リアクタンス)

  • 提案内容が素晴らしいことは理解できているが、他社での成功事例(エビデンス)が少なすぎて最後の決断が下せない(補強証拠)

ステップ4:影響度を点数化する

洗い出した「促進要素」と「拘束具(抑制要素)」に対し、それぞれ影響力ごとに点数をつけます。

  1. 弱い影響力がある

  2. 少しの影響力がある

  3. そこそこ影響力がある

  4. 強い影響力がある

  5. とても強い影響力がある

点数をつける際は、以下の問いを自分に投げかけてみてください。

  • なぜ、これまで何度も提案したのに、まだ理想の状態になっていないのか?

  • 何が相手にとって一番の恐怖であり、変化を強力に妨げているボトルネックなのか?

  • キーマンの中で、誰がこの変化に対して最も強く反対している(または懸念している)のか?

  • 相手にとって、現在のやり方を手放すことに伴う最大のリスクとコストは何だろうか?

  • どのような負の要素や前提条件が存在しているから、理想の変化が起きない状態が維持されているのか?

ステップ5:障壁を取り除く

点数の高い「拘束具」こそが、相手が動けない本当の理由です。カタリストは、この高得点のブレーキを外す(REDUCE)ためのアプローチを最優先で仕掛けていきます。このとき、変化を促進してくれる要素を活用することも忘れずに。

具体的なそれぞれの障壁を取り除く方法については、過去に書いているのでそちらをどーぞ。

  1. Reactance(心理的リアクタンス)
    言われるとやる気をなくす心理的リアクタンスってなんじゃろな?

  2. Endowment(保有効果)
    GreatのライバルはGoodだ!現状維持を好む人間の習性のお話

  3. Distance(心理的距離)
    正論を突きつけても人は変わらないぞ!まずは心理的距離を縮めろ!って話

  4. Uncertainty(不確実性)
    不確実さを取っ払えば相手は動くぞ!心理的ハードルの下げ方4選

  5. Corroborating Evidence(補強証拠)
    証拠提示の仕方を間違えると相手は意見を変えるどころか自分の考えに固執するから気をつけろ!正しい情報の伝え方

まとめ

「変わらない相手」を正論で押すな。 「なぜまだ変わっていないのか」のブレーキを外せ。そのためにあなたはカタリストになれ!という本のお話でした。

確かに勉強しろ!と言われる受けてだとこの感覚はわかるんだけど、なぜか言う側に回った時、人はこの感覚を忘れがちだなーって思いました。相手の行動変容って今すぐに求めてしまうけど、一朝一夕に行くものじゃないことを念頭において相手の理解から始めてみるのがいいってことですかなぁ。