証拠提示の仕方を間違えると相手は意見を変えるどころか自分の考えに固執するから気をつけろ!正しい情報の伝え方

 友人にスマートフォンゲームを勧められたときは全く気にならなかったのに、別の複数の人からも「あのゲーム面白いよね」とおすすめされた瞬間に思わずアプリをダウンロードしてしまった、なんて経験はないでしょうか。

よかれと思って提案した業務効率化の新ツール。あるいは、心から美味しいと思って熱弁したお気に入りの店。それなのに、相手から「ふーん、考えておくよ」とそっけない返事をされたり、何度も伝えているのに一向に行動を変えてくれなかったりした経験は、こうした日常の些細な反応の違いと同じメカニズムから生まれています。

「私の伝え方が悪いのかな」「もっと熱意を込めて、いろいろな角度から説明すべきだろうか」と自分を責める必要はありません。相手が動かないのはあなたの熱意や話術のせいではなく、相手の心の頑固さに合わせた情報戦略を知らないだけだからかも知れません。

人は、失うものが大きいときや、お金がかかるとき、または自分の評判が傷つく恐れがあるときほど、現在の考えに固執し、態度を頑なにします。このような相手に対しては、広告の数を増やしたり、セールストークのバリエーションを変えたりするのではなく、補強証拠を使うのが効果的です。

今回は相手を動かす情報の伝え方を見ていきたいと思いまーっす。

人は自分の考えに態度を持っている

人を動かそうとするとき、まず見極めるべきは、相手がその対象に対して持っている「態度の強さ」です。ここを見誤ると、どんな説得も空振りに終わってしまいます。その態度は2種類に分けられまして、

  • 弱い態度
    好き嫌いや個人的な意見はあるかもしれないけれど、特に強い思い入れがあるわけではない状態。この状態の相手であれば、ちょっとしたきっかけや新しい情報を与えるだけで、簡単に考えを変えてもらうことができます。
    例えば、同僚からふと勧められた映画を見たり、普段買わないメーカーの飲料を何となく試したりするような、こだわりが薄い状態です。

  • 強い態度
    支持する政党や応援するスポーツチーム、あるいは自分の中での善悪の基準がはっきりしている状態。この強い態度を変えることは、容易ではありません。人間は自分のアイデンティティや過去の選択に縛られているため、生半可な説得ではむしろ反発を招き、よりその考えに固執してしまいます。
    例えば、長年愛用している業務ツールへのこだわりや、長年支持している政治的思想、絶対に譲れない仕事の進め方など、本人の信念と結びついた状態です。

強い態度を変えるには、大量の証拠が必要になります。これは、シーソーの関係にとてもよく似ています。相手の思い込みや既有の信念が大きければ大きいほど、それをひっくり返すために必要な証拠の量も、より重く、多くならなければならないのです。

なぜ同じ人が何度も説得しても意味がないのか

私たちがついやってしまう典型的な失敗は、同じ人が何度も熱心に勧めたり、切り口を変えてアプローチしたりすることです。これがなぜ無意味なのか、身近な例で考えてみましょう。

たとえば、同僚にとあるケーキ屋をおすすめされた場面を想像してみてください。もしあなた自身が、そもそもケーキに対してあまり興味がない場合、一度おすすめされても、わざわざ行ってみようとは思わないはず。次の週にその同僚が再び熱心に推薦してきたとしても、おそらく足を運ぶことはないでしょう。

なぜなら、人間の脳は「単一の情報源(ソース)」からの情報を処理するとき、以下のような疑念を自動的に抱くようにできているからです。

  • この同僚は甘い物なら何でも好きなだけなのでは?

  • 本当に素晴らしい店なのだろうか、それとも同僚に何か別の意図があるのだろうか。

  • 同僚が好きだからといって、私も好きになる証拠はどこにあるだろうか?

このように、一人の人間がいくらバリエーション豊かな話を展開したとしても、それは相手にとって「単なる個人の好みの押し付け」にしか見えず、強い態度を覆すほどの証拠にはなり得ません。

この心理メカニズムは、ビジネスにおいてもよく見られるところで、新しいツールを導入するまでに、周囲の競合企業が導入するまでじっと待つ企業が少なくありません。一つのソースにとっては有効だったことも、自分に当てはまるかは分からないからです。だからこそ、リスクを恐れる意思決定者は、一人の営業担当者の言葉を疑い、複数の独立した意見が一致しているものを探すか、あるいは周囲が導入し始めるまで待ち続けます。

情報によって相手を変えたいときに真に必要となるのは、単一の熱意ではなく、複数の異なる視点から得られる「補強証拠」なのです。

補強証拠を最大化する3つの要素

では、相手の態度を変えるにはどのような手段を取ればいいのでしょうか?補強証拠を使いこなすための、3つの要素を見ていきましょう。

1.誰が情報を提供するのか

人間は、自分に近い存在、つまり「自分と属性が似ているソース」を参考にする傾向があります。ホテルのレビューを見るとき、家族連れは家族連れのレビューを熱心に読み、学生は学生のレビューを最も参考にするでしょう。

同じ属性のグループ内で、何かを買っている人や、何かを支持している人がたくさんいるという事実は、それだけで補強証拠になり得ますが、それに加えて重要なのは「バリエーション」です。まったく同じ属性の人が同じことをしている数ではなく、少しずつ異なる背景を持つ人たちが、それぞれの視点で追加の情報をもたらしてくれるかどうかが鍵になります。

ここで注意しなければならないのが、ソースの「ひとまとめ現象」です。たとえば、同じ経理部の人たちから複数の情報を得たとしても、受け手にとっては「経理部からの1つの意見」として片付けられてしまいます。

本当に効果を発揮するのは、「類似性と多様性」を組み合わせた活用です。自分と似ているけれど、似ている面が少しずつ違うソースを集める必要があります。社内であれば、経理部、営業部、開発部という異なる部署の人間が、それぞれの立場から同じ結論を支持している状態を作ることです。

2.いつ情報を提供するか

補強証拠を集めて伝える場合、すべてのソースを「一気に伝える」ことが鉄則です。 情報を提供する間隔をあけてしまうと、せっかく前に受け取ったソースの印象が相手の記憶から薄れてしまいます。小出しにするのではなく、短期間に波を重ねるように情報を集中させることで、相手の脳に「これは無視できない重要なトレンドだ」という強烈なインパクトを与えることができます。

3.どのように情報を伝えるか

私たちの時間や労力といったリソースは限られているため、情報の「深さ」と「広さ」はトレードオフの関係になります。そのため、複数の人に情報を伝えて行動変容を促す場合、2つのアプローチを使い分ける必要があります。

1つは「スプリンクラー方式」です。広く浅く水をまき、比較的短い時間で全体に情報を行き渡らせるやり方です。 もう1つは「消火ホース方式」です。周囲に広げるのではなく、一つのエリアに集中して一気に水を供給するやり方です。

人間は社会的なつながりを持っており、世代、ママ友、あるいは部署など、同じグループに属する人たちは互いに頻繁に情報を共有しています。もし、変えようとしている相手の態度が「弱い」のであれば、各グループに対して浅く広くアプローチするスプリンクラー方式が非常に有効です。少しのきっかけで情報がグループ内に自然と広がっていくため、より広いエリアに情報を伝えることに注力できます。

例えば全社に簡単なアンケートを依頼する場合、各部署の代表に「あなたの部署全員にやらせといて」と伝えるだけでも多くの社員からの回答を期待できます。しかしこれが回答するのにとても頭を使い、調査が必要で、1時間はかかるものだったらどうでしょうか。

このような「強い態度」の相手を変えたいのであれば、消火ホース方式が不可欠です。同じ社会的グループの中にいる複数の人から、多様な情報を伝えてもらい、重要性を認識させる必要があります。

具体的な補強証拠の実践ステップ

相手を動かすために、今日から実践できる具体的なステップは以下の通りです。

  1. 相手の「態度の強さ」とリスクを見極める
    まずは提案する内容に対して、相手が「強い態度」と「弱い態度」のどちらの状態にいるか(コストや評判、損失のリスクを強く感じているか)を見極めることから始めます。
    促す変化によって、相手はどのようなコストが発生するか?リスクはなんだろうか?と考え、書き出してください。

  2. 相手の態度に合わせた拡散戦略を選ぶ
    相手の態度が弱いのであれば、多くのグループに浅く広くアプローチする「スプリンクラー方式」を選びます。相手の態度が強い、あるいは失うものが大きい高リスクな状況であれば、特定の場所に集中する「消火ホース方式」を選択します。

  3. 協力者(異なるソース)を巻き込む
    「消火ホース方式」が必要な場合、あなた一人で何度も説得するのをやめ、相手と類似性がありつつも、異なる背景や部署を持つ協力者を2〜3人見つけます。

  4. 伝えるタイミングを同期させる 協力者たちに同じ週、あるいは同じ日のうちに、それぞれの視点から相手へ一気に提案・推奨を伝えてもらいます(時間的密度の最大化)。

  5. ターゲットの属するコミュニティに集中投資する
    広く浅く伝えるのではなく、相手が所属する特定のチームやグループ(部署や同期、特定のコミュニティなど)へ向けて、集中的に情報を供給し、局所的な社会的証明を作り出します。

まとめ

人の考えや行動を変えるためには、相手の「態度の強さ」に応じたアプローチが不可欠です。思い入れの少ない「弱い態度」であれば簡単な情報提供で変わりますが、リスクやコストが絡む「強い態度」を変えるには、シーソーをひっくり返すような大量の証拠、すなわち「補強証拠」が必要になります。一人の人間がいくらアプローチを重ねても、脳はそれを個人の好みに帰属させてしまうため効果はありません。

大切なのは、「だれが・いつ・どのように」をコントロールすることです。自分と似ているけれど異なる背景を持つ複数のソースから、期間を空けずに一気に、そして特定のコミュニティへ消火ホースのように集中して情報を届けることで、相手は初めて自発的に動き出します。

補強証拠を提示するときは、以下のことから始めてみましょう。

  • 行動変容を図りたい相手に対して、変化に対するリスクとコストを書き出してみる。

  • その説得にあたり、自分とは異なる部署や立場にいて、相手が信頼を置きそうな「別の情報源(同僚や知人)」になり得る候補者をリストアップしてみる。

  • 相手が一括りにしそうなソース源を考えてみる

証拠を山のように用意しても、それを伝える人やタイミング、そして伝え方によって受け取る側の態度は大きく異なります。間違ったやり方をしてしまうと、ますます今のやり方に固まってしまうことがあるので、そこだけは注意なされますよう。