AI時代の必須能力「当たり前を疑う思考法」ラテラル・シンキングを身につける習慣まとめ

 前回の記事で、AIには異なる視点を出させてそれを戦わせろ!人間はそれを指揮する立場であれ!って感じのことを書きました。

AIのビッグデータと処理速度を存分に活かしながら使いこなすための方法を見てきたわけですが、それでは、問いを立て、目標を定め、価値基準に沿って意思決定をする。といった人間に求められるスキルを鍛えるにはどうすればいいのでしょうか?


ってことで今回はその中でも最も重要性の高い「問いを立てる」スキルを磨く方法を考えていきたいと思います。

AIは御存知の通り、すでに学習したデータの中から最も確からしい答えを見つけてくるため、今までにない発想をすることは出来ません。さらに当たり前のように、我々のプロンプトをトリガーにそれについて答えを考えるので、そもそもの問いを考えることも出来ません。

ニュートンが木から落ちたリンゴを見て万有引力を発見したという逸話のように、人間は日常の見慣れた当たり前の中から、ブジャデを体験することで、問いを思いつくことが出来るのです。


私たちがよく耳にするデジャブとは、初めて体験する光景であるにもかかわらず、過去にどこかで見たことがあるような既視感を覚える現象を指します。これに対してブジャデとは、毎日見慣れている日常の光景や既知の業務プロセスに対して、あたかも今初めて見たかのような新鮮な違和感を覚える感覚を意味します。

見慣れた光景をそのまま受け入れてしまうデジャブ的な思考から脱却し、身近な日常に疑問を投げかけるブジャデの視点を手に入れること。これこそが、AI時代において人間が画期的な問いを生み出すための原動力と言えるでしょう。

アイデアの発想を妨げる3つの要因とそれを突破するラテラル・シンキング

前置きが長くなりましたが、新たなアイデアが生まれるとき、そこには必ず「問い」があるわけです。

しかし、多くの人が斬新な発想ができない、あるいはAIを使ってもありきたりな答えしか出ないと悩む背景には、私たちが教育や仕事を通じて徹底的に叩き込まれてきた思考の癖が関係しています。

1つ目の課題は、正解を効率よく導き出すロジカルシンキングだけに頼ってしまう点です。ロジカルシンキングは、前提条件から筋道を立てて結論を導き出すため、業務の効率化や不具合の原因究明には欠かせません。しかし、全員が同じ前提と論理プロセスを使うため、導き出される結論も他者と同じになりやすいという弱点があります。

2つ目の課題は、業界の常識や過去の成功体験という固定観念に縛られてしまう点です。一度パターン化した仕事の流れやサービス構造は、脳の負担を減らすために自動化されます。その結果、なぜこの作業が必要なのか、なぜこの形式なのか、といった根本的な疑問すら湧かなくなってしまいます。

3つ目の課題は、閃きやアイデアは特別な才能やセンスによるものだと諦めてしまう点です。天から降りてくるような直感だけに頼っていては、再現性のある仕事として発想を生み出すことはできません。

これらの課題を解決するためには、筋道を立てて深掘りする垂直的な思考だけでなく、視点を横にスライドさせて前提そのものを変えていく思考の技術が必要となります。


そこで必要になるのが、ラテラル・シンキング。これは、ブジャデの視点によって生まれた「違和感」を、具体的なアイデアの切り口へと広げていくための思考法のことで、日本語では水平思考とも呼ばれます。1967年にエドワード・デボノによって提唱されたこの概念は、論理的な正しさの段階を一度飛び越え、思考の方向性を横に広げる手法です。

ロジカル・シンキングを穴をさらに深く掘り進める作業とするなら、ラテラルシンキングはまったく別の場所に新しい穴を掘り始めるようなイメージで、どれだけ効率よく穴を掘り進めても、そこに水脈がなければ水は湧き出ません。ロジカルシンキングは掘り方を洗練させる技術であり、ラテラルシンキングはそもそもここに穴を掘るべきなのか、隣の土地に掘ってみたらどうなるか、と問い直す技術です。

指揮者としての人間がラテラルシンキングによって新しい穴の場所(切り口)を見つけ出し、その場所をAIとの対話や論理的思考によって深く掘り下げていく。この役割分担を意識することで、発想の可能性は一気に広がるのではないでしょうか。

突飛なアイデアを考えよう!ともすれば、実用的でみんなが思いつかないようなアイデアを最初から考えがちですが、まずは大量のアイデアを創出したうえで、そのアイデアは現実的だろうか?と考えていくプロセスがめっちゃ重要。ほとんどのアイデアはゴミになるんですが、尖ったアイデアを生むためにはそれなりの削りカスが出るのは必要なことです。

ラテラル・シンキングのエビデンス

ラテラルシンキングは単なる精神論や個人の発想のコツにとどまらず、認知心理学や脳科学の研究によってその仕組みが明かされています。

拡散的思考とアイデアの質・量の関係

心理学における創造性の研究では、思考を収束的思考と拡散的思考の2つに分類します。収束的思考は複数の情報から1つの正解を導き出す力であり、拡散的思考は1つの起点から多様な可能性や選択肢を広げる力です。

ギルフォードらの創造性測定に関する研究では、拡散的思考の能力が高い個人ほど、最終的に高品質で革新的な解決策に到達する確率が高いことがわかっています。アイデアの質を高めるための最良の方法は、まず大量のアイデアを多様な軸で出し切ることであり、ラテラルシンキングの手法はその拡散プロセスを強制的に起動させる仕組みとして機能します。

固定観念を外すインサイトの脳内メカニズム

認知心理学では、思い込みによって問題が解けなくなる状態を機能的固定性と呼びます。たとえば、画鋲とマッチを使ってロウソクを壁に固定する問題において、マッチが入っている箱を単なる容器としてしか捉えられない場合、問題は解決できません。マッチの中身を出し、箱を画鋲で壁に固定し、そこにロウソクを立てるという、当たり前を疑う発想が重要なのです。この箱を土台として使う発想へと転換することを、心理学ではインサイトや洞察問題解決と呼びます。

このインサイトが起きる直前の数百ミリ秒間には、脳の右半球の上側頭回と呼ばれる部位でガンマ波の活動が急増することが確認されています。これは、脳内で一見すると無関係に見えていた過去の記憶や概念同士が、急速に結びついた瞬間を示しています。ラテラルシンキングは、この脳内の遠い概念同士の結合を意図的に引き起こすアプローチです。

発想を強制駆動させる3つの思考フレームワーク

思考の視点を横にずらすためには、頭の中で漠然と考えるだけでなく、機械的に思考をフレーム外へと押し出す技法を使うのが効果的です。発想を拡散させることに特化した3つの手法を見ていきましょう。

前提の抽出と否定

あらゆる事業や業務には、暗黙の前提が存在します。この手法では、まず対象となるテーマの前提を箇条書きで書き出し、それをすべて意図的に否定してみます。

例えば、映画館というビジネスを考える場合、以下のような前提があります。

  • 大きなスクリーンがある

  • 暗い部屋で鑑賞する

  • あらかじめ決められたスケジュールで上映される

  • 静かに見なければならない

これらの前提を否定してみますと、

  • スクリーンがない映画館はどうなるか

  • 明るい場所で上映する映画館はどうなるか

  • 静かに見なくてもいい映画館はどうなるか

ここから、声を自由に出して応援できる上映スタイルや、屋外の広場で飲食しながら楽しむ野外映画イベントといった、従来の枠組みを破った新しいサービス形態が生まれました。ポイントは、否定したアイデアが実現可能かどうかを最初に判定せず、一度アイデアとして出し切ることです。

根本的な目的への問い直し

手段が目的化しているケースにおいて、そもそも何のためにこれを行っているのかという根本的な目的に立ち返る手法です。

例えば、新しい高機能な歯ブラシを開発するという課題があったとします。ここで歯を磨く目的は何かと問い直すと、歯の健康を保つことや口内を清潔にすることという本来の目的に到達します。

目的まで視点を引き上げると、解決策は必ずしも物理的な歯ブラシである必要はないことに気づき、噛むだけで汚れが落ちるガムや、水を使わずに口内菌を分解するスプレーといった、従来の歯ブラシ開発の延長線上にはないアイデアの領域が開かれます。

ランダム・インプット技法

脳の認知構造は、類似した概念同士を結びつけやすい性質を持っています。これを利用し、まったく無関係な語彙を強制的に課題と結びつけることで、脳の遠隔連合野を刺激するのがランダム・インプットです。

やり方は非常にシンプルで、辞書をランダムに開くか、ニュースサイトの目についた単語を1つ選んでください。そして、その単語の特徴や性質を書き出し、現在抱えている課題と無理やり組み合わせます。

例えば、カフェの集客を増やすという課題に対し、ランダムに選ばれた単語が図書館だったとします。 図書館の特徴としては、静か、本がたくさんある、返却期限がある、無料で借りられる、などが挙げられます。 これらをカフェと結びつけることで、静寂を売りにした会話禁止の作業集中カフェや、読んだ本を別の客の本と交換できるブックシェアリング・カフェといったアイデアが導き出されます。

ラテラル思考を無意識に繰り出すための日常習慣

と、アイデアを出さなければならない状況で使えるテクニックは以上なんですが、ラテラルシンキングは、特別なミーティングの場だけで行うものではありません。重要なのは、順序立てられた手順を実行することではなく、日常の中で「問いを立てる癖」を脳に染み込ませることですので、日々の行動に取り入れられる思考の習慣付けを紹介します。

見慣れた作業に「異星人の視点」を持ち込む

毎日行っているルーティンワークや通勤経路において、異星人や小さな子供の目線を演じるトレーニングです。 自社のWebサイトを開いたとき、あるいは日次の報告メールを書いているときに、「なぜ自分は毎回この文章を書いているのだろう」「なぜこのボタンはここにあるのだろう」と一瞬立ち止まる癖をつけます。 違和感を覚えたら、すぐに答えを出そうとせず、スマートフォンのメモ帳に「なぜ〜なのか」という問いの形だけで書き残しておきます。日常の自動化された認知を意図的に解除することが、ブジャデの感度を高めます。

正解の代わりに「別の可能性」を3つ挙げる

何か課題に直面したとき、あるいは打ち合わせで特定の案が出たときに、「それも良いが、まったく別の切り口ならどうか」と心の中で3つの選択肢を追加で考える習慣です。 例えば、「会議の参加者を減らす」という案が出た場合、「会議自体をなくす」「全員が無言でチャット欄だけに書き込む」「移動しながら歩いて話す」といったように、一度論理の正しさを無視して多角的なアイデアを即座に頭の中で巡らせます。質よりも「拡散させる速さ」を脳に記憶させることが目的です。

前提を1つだけ破壊した「もしも」を妄想する

休憩時間や移動などの隙間時間に、身の回りのサービスや製品の前提を1つだけ取り払ってみる妄想ゲームです。 飲食店に入ったときに「もしもメニューが存在しなかったら」「もしも料金が後払いではなく事前のサブスクリプションだったら」と考えてみます。 この「もしも」の問いこそが、AIに投げかける最上のプロンプト(指示文)の種になります。

まとめ

アイデア出しの段階で最も邪魔になるのは、「そんなことは現実的ではない」「過去に失敗した事例がある」といったロジカルな批判です。しかし、発想を広げるフェーズにおいてクリティカルな視点を早く持ち込みすぎると、新芽はすべて潰れてしまいますんで、まずは評価を一切挟まず、ブジャデとラテラルシンキングによって仮説やアイデアを泥臭く量産することだけに集中するのを心がけましょう。

見慣れた日常から違和感を察知し、「なぜこうなっていないのか」という未知の問いを生み出すのは、生身の人間が持つ感性であり、AIには代替しがたい強みです。

まずは今日このあと、自分が当たり前のように使っている文房具や、毎日のように返信しているメールに対して、「なぜこのやり方なのか」と問いかけてみてください。小さなブジャデの感覚を味わえたら、それがイノベーションの種かも知れないっすよ!