なんだか最近、気持ちが落ち込みやすい。ストレスを感じると、嫌なことばかり頭の中でグルグルと考えてしまう。このような心のつらさを抱えている方は少なくありません。
その他にも、
うつ病や気分の落ち込み
全般的な不安やパニック症状
社会的な場面での強い緊張や不安
強迫性障害による繰り返しの確認や手洗い
過去のトラウマによるストレス反応
慢性的な睡眠障害や身体の痛み
などな、メンタル疾患までいかずとも日常的に不安を感じていたり、特定の場面で執拗に緊張してしまったりと行った経験はあるのではないでしょうか。
私も数年前、仕事も趣味も生活を送るうえでのすべての営みも何もかもやる気を失ったことがありまして自分の価値がわからなくなった感覚に陥ったことがあります。
こうした悩みを解消する方法を探していると、認知行動療法という言葉を耳にすることがあるでしょう。しかし、名前を聞いたことがあっても、専門的なカウンセリング用語で難しそうに見えたり、要するにポジティブ思考になれということなのかと疑問に思ったりする方も多いのではないでしょうか。しかも説明する人によって言っていることが違ったりするので、ふわっとした印象しかない人も多いはず。
それもそのはずで、一口に認知行動療法と言っても、半世紀以上の歴史の中でアップデートを重ねてきており、その名称の意味するところはかなり幅広い概念になってるんですよね。
ってことで今回はそんな認知行動療法の変遷をたどりながら、あなたの感じている生きづらさを解消するにはどの手法が適切なのかを考えるための方法を見ていきたいと思います。
認知行動療法の基本:心はどのような仕組みで動いているのか
では、認知行動療法の歴史や具体的な技法を見る前に、まずはこの療法が人の心をどのように捉えているのかという根本的な仕組みを理解しておく必要があります。ここを押さえることで、のちほど紹介する技法がなぜ効果を持つのかがスムーズに理解できるようになります。
私たちが日常で強いストレスや不安を感じたとき、多くの人は出来事そのもののせいで落ち込んでいると考えがちですが、認知行動療法では、出来事そのものではなく、それをどう受け取ったかという認知によって、その後の感情や行動が決まると考えます。
たとえば、職場の廊下で上司に挨拶をしたのに、返事がなくそのまま通り過ぎた状況を考えてみてください。この時、人によって頭に浮かぶ解釈が異なり、反応は大きく分かれると思います。
ある人は、何か失礼なことをして嫌われてしまったかもしれないと解釈し、不安や恐怖という感情が生まれ、上司を避けるような行動を取るかも知れません。
またある人は、上司は考え事をしていて聞こえなかったのだろうと解釈し、特に態度を変えずにそのまま過ごすかも知れないでしょう。
さらに別の人は、無視するなんて常識がないと解釈します。ここからは怒りやイライラが生まれ、不機嫌な態度をとるという行動につながってしまうこともあるはずです。
このように、同じ出来事に直面したとしても、直感的に思い浮かんだ頭の中の解釈によって、湧き出る感情も起こす行動もガラリと変わります。認知行動療法では、この瞬間的な解釈を自動思考と呼び、人間関係や仕事でストレスを抱えているときは、この自動思考が知らず知らずのうちにネガティブな方向に偏り、つらい感情が生じて避ける行動をとり、それによってさらに状態が悪化するという悪循環に陥っていることが少なくありません。
このような自分を苦しめている認知の偏りや行動パターンに気づき、より柔軟で現実的なアプローチに整えていく心理療法のことを、認知行動療法とイイます。
認知行動療法の進化の歴史:時代のニーズに合わせて進化した3つの波
前述の通り、認知行動療法は長い歴史の中で、第一世代から第三世代に進化をしてきました。それぞれの世代は、心の不調に対してどこを支援のターゲットにするかが異なります。
第1世代
1950年代から1960年代に登場し、外から観察できる行動の直接的な変容を目指した世代第2世代
1970年代から広まり、頭の中の思考や認知の修正と書き換えを目指した世代第3世代
1990年代から現在にかけて発展し続けていて、思考そのものよりも思考との関わり方や受容を目指す世代
それぞれの世代は、過去の手法を否定して捨て去ったわけではなく、前の世代の限界突破を図りながら、より複雑な心の問題に対応できるように進化をシてきています。それぞれの世代について、対象とする症状とアプローチ方法、そして世代が持っていた限界とは何だったのかを見ていきましょう。
第1世代:行動療法によるアプローチ
1950年代に誕生した第1世代は、目に見える行動を変えれば気持ちも後からついてくるという学習理論に基づいたアプローチでした。
人間は特定の状況と反応をセットで学習します。
たとえば高所恐怖症の人は、高い場所と恐怖という反応を結びつけて学習しています。プレゼンの前に不安と緊張が押し寄せるのも、虫を見た時に恐怖心が湧くのも、すべてはあなたが無意識に状況と反応をセットにしてしまっているためです。第1世代は、こうした誤った学習を正しい行動学習によって上書きしていくことを目指します。
具体的な第一世代の認知行動療法の技法を2つ見てみましょう。
エクスポージャー
日本語では暴露療法と呼ばれ、不安障害やトラウマの治療において確固たる効果を持つ技法です。
人は不安や恐怖を感じると、その原因となる対象や場所を避けることで一時的な安心を得ようとしますが、避ければ避けるほど脳はそこが危険な場所であると誤って再学習し、恐怖心が肥大化してしまいます。エクスポージャーは、安全な環境のもとで恐れている対象にあえて身を晒し、不安が自然と下がるのを身体で体験する手法です。不安は一定のピークを迎えたのちに自然と下がっていくので、低いレベルから徐々段階的に慣れていく必要があります。
軽く具体的な実戦ステップを見てみましょう。
改善したい状況と反応のセットを書き出す
克服したい場面と、その時に起こる心身の反応を書き出します。ロードマップを作る
その反応の強度をレベル10とした時の、レベル1から9までの行動を考えるレベル1からこなす
レベル1を何度か実践し、反応がマイルドになってきたらレベル2へ移行する。レベル2の強度が強すぎると感じる場合は、レベル1に戻るか、レベル1.5の行動を考えて実践する。
といった流れで脳に刷り込まれた過剰な危機反応をチューニングしていきます。この手法は以下のような症状に対して有効です。
パニック障害・広場恐怖症(電車や人混みなど、逃げ出せない場所でのパニック発作や激しい不安)
強迫症 / 強迫性障害(OCD)(汚染恐怖による手洗いや、鍵・ガスの元栓などの過剰な確認行為)
社交不安症 / 社交不安障害(SAD)(人前での発言・注目される場面での極度の緊張や恐怖)
特定恐怖症(高所恐怖症、閉所恐怖症、暗所恐怖症、先端恐怖症など)
外傷後ストレス障害(PTSD)(過去のトラウマ体験の記憶や、それを連想させる場所に対する回避)
全般不安症(日常のあらゆる出来事に対する過剰な取り越し苦労や持続的な不安)
動物・昆虫恐怖(ゴキブリ、ハチ、蜘蛛、犬などに対する強いパニック反応)
身体感覚に対する恐怖(動悸やめまい、息苦しさなどの生理現象に対する過剰な恐怖)
死に対する極度の恐怖(タナトフォビア)(自分が死ぬことや身近な人が死ぬことへの支配的な恐怖)
特定刺激への過敏反応(集合体恐怖/トライポフォビア、特定の音や映像に対する回避)
行動活性化
こちらは主にうつ病の治療で強力な効果を発揮するアプローチです。
心が落ち込むと、人は外に出たり趣味を楽しんだりすることをやめて引きこもりがちになります。しかし活動をやめると、達成感や喜びを得られる機会が失われ、さらに気分が落ち込むという悪循環に陥るため、この負のスパイラルから脱却するために、やる気が出るのを待つのではなく、先に小さな行動を起こすことで脳を刺激し、気分を引き上げることを目指します。
具体的には以下の流れで実践します。
現状の記録(モニタリング)
1日の行動と、その時の「気分」や「達成感・満足感」を10点満点で記録し、行動と気持ちのつながりを把握する。活動リスト(アイデア)の作成
過去に楽しかったことや、小さな「できた(達成感)」を得られそうな行動(例:散歩、片付け、カフェに行く)を書き出す。行動の細分化(スモールステップ化)
億劫に感じたら行動を分解する(例:「掃除をする」→「机の上を1分だけ片付ける」)。実行計画と実施
「いつ・どこで・何をするか」を具体的に決めてスケジュールに組み込み、気分に左右されず「予定通り」試してみる。ふりかえりと調整
実行できたかを評価し、気分や変化を記録する。上手くいかなくても責めず、ステップをさらに細かくして次回に生かす。
第2世代:伝統的認知行動療法によるアプローチ
第1世代の行動療法は、目に見える行動を変えることで高い効果を上げてきましたが、大きな限界がありました。それは、人間が頭の中で行っている「捉え方や解釈(認知)」という内面的なプロセスが考慮されていなかった点です。
私たちは同じ出来事に遭遇しても、それをどう解釈するかによって生じる感情や行動が大きく変わります。前述のような例で言えば、街で知人に挨拶をして反応がなかったとき、「忙しくて気づかなかったのだろう」と捉える人もいれば、、「自分は嫌われているんだ」と深く落ち込む人もいます。
このように、出来事と感情の間にある「考え方のクセや解釈(認知)」に直接アプローチし、硬直した思考を柔軟に整えていく手法として誕生したのが、第2世代である認知療法(狭義の認知行動療法)です。
これはABC理論と呼ばれておりまして、ABCは私たちの心の流れを表した次の頭文字を取ったもの。
A(Activating Event):出来事・事実
B(Belief):信念・解釈・受け止め方(認知)
C(Consequence):結果として生まれる感情や行動
嫌な出来事(A)があったから、落ち込む・怒るなどの感情(C)が生まれた」と考えられてきましたが、「出来事(A)」が直接「感情(C)」を引き起こすのではなく、その間にある「自分の受け止め方や思考のクセ(B)」こそが、結果としての感情を決めていると考えるようになりました。
例えば、仕事でミスをしたとき(A)、頭の中で「自分はなんて駄目な人間なんだ、もう終わりだ」という極端な思考(B)が働くと、激しい落ち込みや不安(C)が生まれます。この間にあるB(解釈や思考のクセ)に気づき、「ミスはしたが、次への改善策はある」といった現実的で柔軟な捉え方へと書き換えていくことで、つらい感情(C)を和らげていくアプローチです。
このような認知革命は1970年代に精神科医のアーロン・ベックらによって提唱され、うつ病や不安症に対する標準的な治療として世界中に広がりました。
第2世代では、強いストレスを感じている人が陥りがちな偏った思考パターンを認知の歪みと呼び、それらを整理・同定していくことを重視します。代表的な認知の歪みには以下のようなものがあります。
白黒思考
物事を成功か失敗か、味方か敵かのように二者択一でしか捉えられないパターン結論の飛躍
十分な根拠がないにもかかわらず、悲観的な結論を飛躍して出してしまうパターン自分への関連づけ
自分に責任がないことまで、すべて自分のせいだと抱え込んでしまうパターン感情的決めつけ
根拠ではなく、自分がそう感じたという感情そのものを事実だと信じ込んでしまうパターン過度の一般化
たった一度の失敗体験を、すべての場面に当てはめて考えてしまうパターン
こうした思考のクセに対して用いる代表的な技法が認知再構成法です。
認知再構成法
頭の中に自動的に浮かぶネガティブな思考を客観的に見直し、バランスの良い考え方に整えていく技法です。
この手法では、ネガティブ思考を排除すべき悪いものと決めつけるのではなく、客観的なノート作業を通して、自分の考えを裏付ける事実と、それと矛盾する事実の両方を洗い出します。
具体的には以下のステップを行います。
状況の特定
いつ、どこで、誰と何をしているときに問題が起きたか(客観的な事実)を記録します。感情の可視化と数値化
そのとき湧き上がった感情(不安、怒り、悲しみなど)を書き出し、それぞれの強さを0〜100%の数値で評価します。自動思考の書き出し
感情が高ぶった瞬間に、頭の中にパッと浮かんだ「考え」や「イメージ」をそのまま言葉にして特定します。根拠と反証の整理
ステップ3で浮かんできた考え(自動思考)を裏付ける「事実(根拠)」と、それに反する「別の事実(反証)」を客観的にリストアップします。適応的思考(バランス思考)の導出
根拠と反証の両方をふまえ、極端な偏りを減らした、より現実的で柔軟な新しい考え方を導き出します。感情の再評価
新しい考え方を採用した結果、ステップ2で挙げた感情の強さ(数値)がどう変化したかを再測定し、変化を確認します。
たとえば、プレゼンで言い間違えたことに対して全員が自分を無能だと思っているという思考が浮かんだとします。これに対して、1回言葉が詰まったという事実だけでなく、発表後に質問をしてくれた人がいたことや、上司から資料を見やすかったと褒められた事実を書き出します。
両方の事実を比べることで、言い間違えたのは反省点だが全体としては伝えたい内容が届いていたという、より柔軟で現実的な思考へと言い換えることができ、認知の歪みが調整されていくのです。
第3世代:新世代の認知行動療法によるアプローチ
第2世代の認知療法は、ネガティブな思考や考え方の偏りに気づき、それを客観的で柔軟な考え方へと修正していくことで、世界中で高い効果を上げてきましたが、この第2世代のアプローチにも独自の限界点が存在しました。
最大の問題は、「ネガティブな考えを変えようと意識すればするほど、かえって頭の中がその考えでいっぱいになり、余計に囚われてしまう」という現象です。
これは「シロクマ効果(思考の抑制効果)」と呼ばれる減少で、シロクマのことだけは絶対に考えないでください」と指示された人は、シロクマのことが頭から離せなくなってしまうということが実験でわかったのです。人間は「ネガティブな思考を消そう、打ち消そう」と焦るほど、脳がその思考を過剰に意識してしまう性質を持っているのです。
特に、強い不安やトラウマ、長年染みついた自己否定感を抱える人の場合、頭の中で無理に思考を修正しようと格闘すること自体が、かえって強い疲弊やストレスになってしまうケースがあります。
そこで、「頭の中のシロクマ(ネガティブな思考)を消す」というコントロールそのものを手放し、「思考や感情との付き合い方(関係性)」を変えていこうという新しいアプローチとして誕生したのが、第3世代の認知行動療法です。
頭の中に現れたネガティブな思考に対して、反論したり打ち消したりするのではなく、「あ、今自分の中にシロクマ(ネガティブな考え)がいるな」と距離を置いてただ観察する。そして、思考を放置したまま、自分が本当に大切にしたい行動に集中する。これが第3世代の大まかな考え方です。
受容とコミットメント療法
これは、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)と呼ばれる心理療法で、その名の通り、自らの感情を受け入れ、価値観に沿った行動にコミットするアプローチです。
不安や悲しみといったネガティブな感情は人間として自然な反応であり、ゼロに消し去ることはできません。それらを無理に排除しようとする行動こそが苦しみを生み出すと考えます。この手法では、つらい感情を抱えながらも、自分が人生で大切にしたい価値に向かって行動する力を養います。
重要な柱として、思考と自分を切り離す脱フュージョンという概念があります。私はダメ人間だという考えが浮かんだときに、私はダメ人間だという考えを今自分は持っていると言い直すことで、思考を単なる脳内の言葉として客観視します。さらに、自分の人生にとって重要な価値を明確にし、不安を感じたままでもその方向へ一歩を踏み出す練習を行います。
マインドフルネス認知療法
こちらは、うつ病の再発予防やストレス低減のために開発され、世界中で広く実践されている技法です。
心が苦しくなっているとき、頭の中は過去の後悔や未来の不安に支配され、ネガティブな思考がグルグルと空回りしています。マインドフルネスは、評価や判断を下さずに、今この瞬間に意識を向けるトレーニングです。
具体的には、自分の呼吸に意識を集中させる瞑想などを行います。途中で仕事の不安などが頭に浮かんできても、それを自分から追い払おうとせず、雑念が浮かんだ事実だけを認めてそっと意識を呼吸に戻します。この練習を繰り返すことで、思考の渦に引きずり込まれない心の筋力を育てていきます。
このように第3世代は、思考を変えるのではなく思考との距離感を変えるという新しい選択肢をもたらしました。それでは、これからの時代において認知行動療法はどこへ向かおうとしているのでしょうか。最後に、最新の治療モデルの展望について見てみましょう。
これからの認知行動療法は、個人のプロセスに合わせたオーダーメイドの時代
ここまで第1世代から第3世代までの歴史と技法を見てきましたが、近年の研究では、認知行動療法はさらに一歩先のアプローチへと進化を進めています。それがPBT(Process-Based Therapy)と呼ばれる考え方です。
これまでは、うつ病にはこのマニュアル、パニック症にはこのマニュアルというように、医学的な病名に合わせて決められた治療パッケージを当てはめることが一般的でした。
しかし、同じうつ病と診断された人であっても、苦しんでいる原因が思考の反芻である人もいれば、行動の停止や感情の麻痺である人もいます。
これからの時代は、病名という枠組みにとらわれることなく、目の前の個人がどのような心の仕組みやプロセスでつまずいているのかを分析し、第1世代から第3世代までの多様な技法を一人ひとりに合わせてオーダーメイドで組み合わせていく時代に入っています。
まとめ:自分に合った心の整え方を見つけるために
認知行動療法は、行動の変容、思考の修正、そして受容とマインドフルネスという形で着実に引き出しを増やしながら進化を続けてきました。
第1世代:行動に働きかけ、恐怖への慣れや活動の再開を目指す
第2世代:思考のクセに気づき、より現実的でバランスの良い考え方に整える
第3世代:思考や感情を排除せず受け入れ、自分にとって大切な価値に向かって進む
認知行動療法は特別な魔法ではなく、筋トレやスポーツの練習と同じように、自分の心の動きのパターンを知り、扱い方のコツを少しずつ練習していく技術です。
今回ご紹介したそれぞれの技法には、さらに深い実践方法や理論が存在します。自分の心の状態にはどのようなアプローチが合いそうかを考えるきっかけとして、この記事を活用していただければ幸いですー。
ではまた。