日々の業務をこなす中で「言われた作業を繰り返すだけで意味を見出せない」「指示通りに動くだけで疲弊してしまう」と感じる瞬間は誰にでもあるはず。情熱を持って始めた仕事であっても、多忙や慣れによってモチベーションが下がってしまうケースは少なくありません。
こうした状況を打破し、現在の職場にいながら自分の仕事にやりがいを見出す手法で、組織心理学の分野で研究されているジョブ・クラフティングってのがあります。
今回は、仕事の進め方や捉え方を自分で調整し、前向きに働くための実践方法を書いてみようかと思いまーす。
仕事は意味づけが大事
ジョブ・クラフティングの根本にある「仕事に対する捉え方の重要性」を分かりやすく伝える話として、17世紀の英国で大火からの復興を率いた建築家クリストファー・レンの有名な逸話があります。
聖ポール大聖堂の建設現場を訪れたクリストファー・レンは、石を切っていた3人の職人に「何をしているのか」と問いかけました。すると三人は仕事をそれぞれ違って解釈してて、
1人目の職人は、疲れた表情で「重い石を切っている」と答えました。彼にとって仕事は単なる苦痛な作業のようです。
方や2人目の職人は、冷静に「家族を養うためのお金を稼いでいる」と答えました。彼にとって仕事は生活費を得るための手段です。
そして3人目の職人は、生き生きとした表情で「人々の心を救い、未来に残る美しく壮大な大聖堂を作っている」と答えました。彼は自分の作業を、大きな目的に貢献する重要な役割だと捉えていたのです。
3人が行っていた物理的な作業はまったく同じでしたが、仕事に対する意識の違いが、モチベーションや取り組み方に大きな差を生み出しているようです。自分のタスクを大きな目標の一部として捉えることで、主体的かつ前向きに課題解決へ挑むようになっています。
ジョブ・クラフティングとは、仕事を、1人目や2人目の職人が捉えているような「目の前のタスクをこなすもの」や「金を稼ぐための手段」といったものではなく、3人目の職人のように、与えられた仕事を自分の価値観や強みに合わせて再構築し、やりがいを高めていくのが目的です。
ジョブ・クラフティングを実践する7つのステップ
では早速、ジョブ・クラフティングのやり方を一つずつ見ていきましょう。
ステップ1:現状の仕事の可視化
最初に行うのは、自分の仕事の現在地を知ることです。現在抱えているタスクを書き出し、それぞれにどれくらいの時間とエネルギーを費やしているか、割合を把握します。
例えば、営業職の場合はこんな感じ。
アポ取りやメール対応
時間:40%
エネルギー:30%
提案書の作成
時間:30%
エネルギー:50%
顧客との商談
時間:30%
エネルギー:20%
コレくらいざっくりな分類でOK。感覚的な負担と時間配分を数値化して、客観的に自分のタスクを眺められるようにします。言わずもがな、時間とエネルギーは全部足したら100%になるように振り分けてください。
ステップ2:現状の振り返り
書き出した配分を見つめ、自分がどう感じているかを思いつくままに書き出してみましょう。何も浮かばないときは、以下の点を考えてみましょう。
現状の時間とエネルギーの割り当てに対して、自分はどう感じるか?
可視化したことで「驚いた点」はあるか?
過去(入社当初や1年前)と比べて、変わった部分はどこか?
これらを考えてみると、
雑務にエネルギーを取られすぎていて本業に集中できていないな。
実は自分にとって重要な業務に時間を割けていないな
といったギャップや驚きがないかを確認します。現状に対する違和感に気づくことが改善の第一歩です。
ステップ3:自分の価値観とスキルの整理
仕事を通じて満たしたい価値観や、発揮したい能力を明確にします。
ここで言う価値観と発揮したい能力の意味はこんな感じ。
強みとは「データ分析が得意」「人の話を聞いて整理するのが得意」といった具体的な能力を指します。
価値観(Motivation)
仕事の目的意識のこと。
「人に感謝されたい」「新しいものを創り出したい」「専門性を極めたい」「チームの成長を支えたい」など)発揮したいスキル・能力(Mindset & Skills)
実際に仕事を行うにあたって、どのような能力やスキルを発揮したいのか?どのように価値観を達成したいのか?
「分析力を活かしたい」「対話力で課題を解決したい」「デザイン思考を取り入れたい」など)
ステップ4:タスクの再構築
いよいよ仕事の「中身(責任や手順)」を変えていくプロセスです。クリストファー・レンの逸話のように、「単に石を切る」から「大聖堂を作る」ための行動へとシフトさせていきます。
ステップ3で定義した「動機」や「思考」と、現在行っているタスクを照らし合わせ、以下の点を考えてみましょう。
自分の価値観や得意なスキルに深く関係するタスク、あるいは活かせそうなタスクはどれか?
そのタスクを、より自分の価値観に合致するよう「どう変えていきたいか」?
※必要であれば、新たなタスクを思いついた時点でステップ1のタスクリストに書き足しても構いません。さらに、「こんな時間・エネルギー配分が理想だ」という理想的な配分を書き足してみるのもアリ。
例えば、事務職で「説明が分かりやすいと言われるスキル」がある場合、単にマニュアル通りに書類をチェックするだけでなく「部署内でよくある質問をまとめたQ&Aシートを作成する」というタスクを自ら追加してみます。また、やりたい仕事に配分する時間を増やすために、業務の効率化を図るのも効果的です。
ステップ5:人間関係の再構築
仕事は一人では完結しません。上司、同僚、部下、あるいはクライアントとのコミュニケーションの頻度を見直していきます。その際は、以下の点について考えましょう。
各タスクに取り組む際、特に重要な人物は誰か?
その人との関係性を深めるために、自分からどのようなアプローチができるか?
自分の価値観やスキルを最も活かせる相手や、相互に最大の利益をもたらせる最も影響力のある人間は誰か?
例えば、エンジニアが「ユーザーの生の声を開発に活かしたい」と考えた場合、営業担当者とのコミュニケーション機会を定期的に増やし、顧客の要望やフィードバックを直接共有してもらうような関係性を築きます。誰とどのように関わるかを主体的に選択するのがポイントです。
ステップ6:認知の再構築
タスクそのものを変えるのではなく、その仕事が持つ目的や全体像における役割を捉え直します。ここでは以下の点について考えてみてください。
今行っている日々のタスクは、組織や自分自身の将来の目標にどう繋がっているか?
上位の目標を達成するため、あるいは自分が人生で大切にしている価値観を満たすために、この仕事はどのように役立っているか?
例えば、経理担当者が行っている「伝票の入力作業」を、単なるデータ入力ではなく「会社の健全な経営判断を支える基礎データの構築」と捉え直す、みたいな感じ。自分の仕事が組織や最終的な利用者にどう貢献しているかを意識するのが重要です。
ステップ7:具体策への落とし込み
最後に、ここまでの整理をもとに「明日から具体的に何をするか」を行動計画に落とし込みます。大げさな変化である必要はありませんので、「明日からできる小さな一歩」を具体的に書き出しましょう。
事務職の例(タスクの再構築)
単なる書類チェック作業に虚しさを感じており、「分かりやすく伝えるスキルを発揮してチームに貢献したい」と考えている。
ー>「毎週月曜日の午前中に15分間枠を確保し、問い合わせが多い作業手順の『図解入りQ&Aシート』を1項目ずつ作成して共有フォルダに更新する。」
エンジニア職の例(人間関係の再構築)
仕様書通りの開発だけでなく、「利用者の生の声を聴き、人の役に立っている実感を得ながら開発したい」と考えている。
ー>「隔週水曜日のランチタイムに営業担当者に声をかけ、今週導入された新機能に対するクライアントの反応や改善要望を10分間ヒアリングする。」
営業職の例(認知の再構築)
日々の電話かけやノルマ追いに疲弊しており、「自分の仕事は顧客の課題を解決するサポートだ」と捉え直したい。
ー>「毎朝PCを立ち上げた際、今日連絡する顧客のWebサイトを開き『この企業が今どんな課題を抱えていて、自社サービスでどう解決できるか』を1分間ノートにメモしてから架電を開始する。」
企画・マーケティング職の例(タスクの再構築&挑戦的要素の追加)
ルーティンのデータ集計ばかりで成長実感がないため、「データ分析の専門性を高めて新しい企画を提案したい」と考えている。
ー>「毎週金曜日の終業前30分を『分析・勉強タイム』と決め、集計データから見えた独自の考察と改善案を1ページのスライドにまとめて上司に提出する。」
若手社員・サポート職の例(人間関係の再構築&対人支援獲得)
自分一人で抱え込みがちで効率が落ちているため、「周囲との関係性を深め、フィードバックをもらいながらスキルアップしたい」と考えている。
ー>「提出物や資料を作成した際、そのまま送るのではなく『特に○ページの表現についてアドバイスをいただけますか』と具体的な相談ポイントを1点添えて上司・先輩に送る。」
アクションプラン作成のコツ
このステップで書き出す行動は、「誰が・いつ・何をするか」が客観的に分かるレベルまで細分化するのがよさげ。大きすぎる目標ではなく、「5分〜30分程度で始められる小さな一歩」にすることが、途中で挫折せずに継続するコツとなります。
ステップ8:ジョブ・クラフティング尺度による定期測定
ジョブ・クラフティングを実施した後は、自分の取り組みが適切に機能しているかを定期的に確認することが推奨されます。組織心理学において幅広く活用されている「日本語版ジョブ・クラフティング尺度」の21の質問項目を用いてセルフチェックを行いましょう。
回答は「まったく当てはまらない(1点)」から「非常によく当てはまる(5点)」の段階で評価し、各カテゴリの平均値を算出します。
構造的な仕事の資源の向上(日本人の平均点:2.8)
私は、自分の能力を伸ばすようにしている
私は、自分自身の専門性を高めようとしている
私は、仕事で新しいことを学ぶようにしている
私は、自分の能力を最大限に生かせるように心がけている
私は、自分の仕事のやり方を自分自身で決めている
妨害的な仕事の要求度の低減(日本人の平均点:2.1)
私は、仕事で思考力が消耗しすぎないようにしている
私は、自分の仕事で感情的に張りつめないように心がけている
私は、自分の感情を乱すような問題を抱えている人との関わりをできるだけ減らすように自分の仕事に取り組んでいる
私は、非現実的な要求をしてくる人との関わりをできるだけ減らすように自分の仕事を調整している
私は、困難な決断をたくさんしなくてもいいように自分の仕事を調整している
私は、一度に長時間にわたって集中しなくてもいいように自分の仕事を調整している
対人関係における仕事の資源の向上(日本人の平均点:1.8)
私は、上司に自分を指導してくれるように求める
私は、上司が私の仕事に満足しているかどうか尋ねている
私は、上司に仕事で触発される機会を求める
私は、仕事の成果に対するフィードバックを他者に求める
私は、同僚に助言を求める
挑戦的な仕事の要求度の向上(日本人の平均点:2.1)
面白そうな企画があるときには、積極的にプロジェクトメンバーとして立候補する
仕事で新しい発展があれば、いち早くそれを調べ、自ら試してみる
いまの仕事であまりやることがないときは、新しいプロジェクトを始めるチャンスととらえる
私は、金銭的な報酬が追加されなくても自分に課された以上の仕事を率先してこなしている
私は、職務の様々な側面のつながりをよく考えながら自分の仕事がさらに挑戦しがいのあるようにしている
1〜3ヶ月に一度このチェックを行い、スコアが平均点より低い部分があれば、アクションプランを見直して改善を図ります。
実践における2つの注意点
ジョブ・クラフティングは有効な手法ですが、進め方を誤ると逆効果になる場合があります。特に以下の2点には注意が必要です。
燃え尽き症候群
仕事のやりがいを追求するあまり、自ら過度な負担を抱え込んでしまい、ワークライフバランスを損なうケースです。
国際保健機関(WHO)では、慢性的な職場ストレスが適切に管理されなかった結果生じる症状を「バーンアウト」として定義しています(R)。具体的には、
エネルギーの枯渇感や疲労感
仕事に対する消極的・否定的な感情の増加
職務効率の低下
という3つの側面が特徴です。こうした兆候が見られる場合は、挑戦的なタスクを増やすのを止め、負担を減らす調整を優先してください。
やりがい搾取
ジョブ・クラフティングはあくまで自分の働き方を工夫する手法であり、過剰な業務量や不当な労働条件を我慢するためのものではありません。
組織によっては、労働者の前向きな意欲に依存し、適切な対価や適切なリソースを提供しないまま業務負担を増やし続ける構造が存在します。
自身の工夫だけで改善しようとするのではなく、現在の労働環境や評価基準そのものが妥当であるかを常に客観的に見極める姿勢が重要です。過度な問題がある場合は、環境の変更や適切な相談機関への連絡を検討してください。
まとめ
今回は、与えられた環境の中で自分の仕事の意味を見出し、主体的な働き方を実現するための実践的なフレームワーク、ジョブ・クラフティングをご紹介しました。
日々の業務を客観的に見直し、自分の価値観や強みに合わせた調整を加えることで、仕事に対するモチベーションや満足度を高めることができます。
過度な負担による燃え尽きや、不適切な労働環境への適応手段として誤用しないよう注意さえしていれば、やりがいを高める非常に予期ツールですんで、定期的に自分の働き方を振り返り、持続可能な範囲で小さな改善を積み重ねていっていただければと存じます。よしなにどぞー。