AI時代に必要なスキルってなんだろう?というテーマでやっておりますシリーズの続きです。
情報の蓄積や処理に関してはAIに軍配が上がるため、業務に必要な専門知識や技術などのハードスキルはAIに任せ、人間が担うべきは円滑な対人関係や仕事を進めるための特性であるソフトスキルを伸ばしていくことが大事だぞ、という話です。
しかし、一口にソフトスキルと言ってもその言葉が意味するところはめっちゃ幅広いため、中央大学が公開しているコンピテンシー定義の一覧(R)を参考に、以下の7つのスキルについて見ていっております。
コミュニケーション力
問題解決力
知識獲得力
組織的行動能力
創造力
自己実現力
多様性創発力
このフレームワークは、就職活動における自己分析や面接対策、若手社員のスキル開発、プロジェクトチームにおける相互理解、さらには多文化・多様な価値観が交差するグローバルなビジネス現場など、あらゆる場面で自身の強みや課題を客観的に把握するための指標として活用できますので、参考になるのではないかと。
で、今回はその中の3つ目である「知識獲得力」について見ていきたいと思います。
知識獲得力の構成要素
で、まずは中央大学の知識獲得力の定義はこんな感じ。
継続的に深く広く情報収集に努め、取捨選択した上で、知識やノウハウを習得し、関連付けて活用する
つまり知識獲得力とは、単に教科書的な知識を暗記して詰め込むことではなく、質の高い情報を見極めて獲得し、それを自身の知性に昇華させた上で、新たな文脈へと結びつけて実践する動的なプロセスってことですね。
そして知識獲得力は以下の3つの下位スキルによって構成されています。
情報収集力
学習
応用力
ここからは、この3つのスキルの詳細と鍛え方を見ていきましょう。中央大学のコンピテンシーには、これらの評価軸が6段階のレベルで書かれているので、そちらも参考にしてみてください。
1. 情報収集力:ノイズを見抜き一次情報に迫るスクリーニング力
【定義】
必要な情報を入手し、精査した上で、取捨選択して自分のものとする
【レベル構造】
レベル5:絶えず変化し多様性を増す環境の中で様々な手段を駆使し、情報を入手している。信頼性が高い情報のみを選択して自分のものとしている
レベル4:様々な手段を駆使し、情報を入手している。信頼性が高い情報のみを選択して自分のものとしている
レベル3:工夫して情報を入手し精査した上で、取捨選択して自分のものとしている
レベル2:情報を入手し、精査している
レベル1:通り一遍の情報入手に留まっている
レベル0:必要な情報が入手できない
ネット上の検索結果を鵜呑みにする受動的な状態から、多角的なチャネルを駆使して情報の真偽と信頼性を厳密に見極め、自身の知見として取り込むレベルまでの広がりがあります。
大量の情報が溢れる現代社会において、信頼度の低い情報や誤情報に惑わされる心理的メカニズムはメディア心理学や認知科学で深く研究されています。 人間には、自分の信念や願望に沿う情報ばかりを集めて都合の悪い情報を無視してしまう確証バイアスや、目立ちやすい情報を鵜呑みにする利用可能性ヒューリスティックが存在します。
レベル1やレベル2のような表面的な情報収集では、これらのバイアスに囚われ、根拠の薄い情報や誤った前提に基づいて意思決定を行ってしまいがちです。 情報認知の研究によれば、ソースの出所や検証プロセス(エビデンスレベル)をチェックするメタ認知的なスクリーニング能力が高い人物ほど、複雑な状況下での判断ミスが劇的に少ないことが示されています。レベル4やレベル5における信頼性の高い情報の精査能力は、AI時代における知的生産性の生命線となります。
鍛え方1. メディア・リテラシーのチェックリスト
情報を入手した際、その情報の一次ソースはどこか、著者の専門性や利害関係(利益相反)はないか、反証となるデータは存在しないか、という3つの問いを常に立てる習慣をつけます。 収集した情報に機械的なフィルターをかけることで、認知バイアスによる誤情報の丸呑みを効果的に防ぐことができます。
鍛え方2. トライアングレーション(多角照合)
1つの情報源だけに頼らず、異なる背景を持つ複数のメディアや学術論文、専門家の意見など最低3つの独立したソースから事実確認を行うトレーニングです。 異なるアプローチから情報を照合することで、偏りのない客観的で精度の高い情報だけを抽出するスクリーニング能力が鍛えられます。
2. 学習:専門を超えて知を蓄積する継続的ラーニング
【定義】
専門知識のみならず自然科学および人文社会科学に関するものも含めて、幅広い分野で知識やノウハウを深く習得することを継続する
【レベル構造】
レベル5:絶えず変化し多様性を増す環境の中で専門知識のみならず、自然科学および人文社会科学に関するものも含めて幅広い分野で、知識やノウハウを深く習得することを継続している
レベル4:専門知識のみならず、自然科学および人文社会科学に関するものも含めて幅広い分野で、知識やノウハウを深く習得することを継続している
レベル3:専門知識のみならず自然科学および人文社会科学に関するものも含めて、幅広い分野で、深く知識やノウハウを習得している
レベル2:自ら新しい知識やノウハウの習得に努めている
レベル1:限定的な知識やノウハウの習得に留まっている
レベル0:自ら新しい知識やノウハウを習得できていない
自分の担当業務に必要な狭い知識だけに閉じこもる段階から、自然科学や人文科学まで横断的に学び続け、環境変化に応じて知識体系をアップデートし続けるレベルまでの差異を示しています。
幅広い分野の学習がもたらす効果については、教育心理学や脳科学で多くの研究がなされています。 ある特定の専門分野のみに特化した知性は、環境が激変した際に過去のパラダイムに固執してしまう専門家の不経済と呼ばれる現象を引き起こしやすいことが指摘されています。
一方で、ハーバード大学などの研究によると、専門外の領域(リベラルアーツや他分野の科学)にわたる広範な知識のメンタルモデルを持つ人物ほど、未知の不確実な課題に直面した際の適応能力が高いことが分かっています。 脳科学的にも、異なる分野の刺激を受け続けることで神経ネットワークの可塑性が高まり、加齢にかかわらず新たな概念を効率よく獲得できるアンラーニング(学習棄却)と再学習のサイクルが促進されます。
鍛え方1. クロスジャンル・リーディング
毎月、自分の専門分野の書籍に加え、まったく関わりのない分野(例えば文系職種であれば量子力学の入門書、理系職種であれば社会学や歴史書の書籍など)を最低1冊は読了するルールを設けます。 異なる学問体系の思考枠組みに触れることで、単一の専門性に固執しない多角的な知のベースが構築されます。
鍛え方2. ファインマン・テクニック
新しく獲得した複雑な概念や知識を、その分野の専門用語を使わずに小学生にも分かるような平易な言葉で説明(あるいは書き出し)してみるトレーニングです。 難解な言葉でお茶を濁さず簡潔に言語化する作業を通じ、自分がどこを真に理解していて、どこに知識の穴があるのかを客観的に把握することができます。
3. 応用力:異分野の知を結びつけ異次元の価値を生む接続力
【定義】
入手した知識やノウハウを関連付けて活用する
【レベル構造】
レベル5:絶えず変化し多様性を増す環境の中で入手した知識やノウハウを関連付け、他者が思いつかない形で随時活用している
レベル4:入手した知識やノウハウを関連付け、他者が思いつかない形で活用している
レベル3:入手した知識やノウハウを関連付け、自ら工夫して活用している
レベル2:入手した知識やノウハウを関連付けて活用している
レベル1:入手した情報や知識やノウハウが一通り関連付けられている
レベル0:入手した知識やノウハウが関連付けられていない
得た知識をそのまま丸暗記して終わる段階から、一見無関係に見える複数の知識を結びつけ、誰も思いつかないような革新的なアプローチで実践に落とし込むレベルまでの広がりを表しています。
知識の応用とイノベーションの相関関係は、認知心理学やイノベーション研究の中核テーマです。 認知心理学によれば、人間の創造的で優れた着想は、記憶の中に存在する「遠い概念同士の結合」によって生まれることが実証されています。
また、イノベーション論で高名な研究群においても、革新的なプロダクトや解決策の多くは、全く新しい要素の発明ではなく「既存の要素の新しい組み合わせ」から生まれることが示されています。 レベル4やレベル5のように、獲得した知識やノウハウを文脈を超えて関連付ける能力がなければ、どれほど知識を溜め込んでも教科書通りの回答しか出せず、AIが代替できる領域を出ることができません。
鍛え方1. アナロジー思考(類推トレーニング)
目の前の課題に対して、一見全く関係のない自然界の現象や異業種のビジネスモデル、歴史的出来事との共通点を見つけ出し、解決のヒントとして応用する練習を行います。 生物の構造を工学技術に応用するバイオミミクリー(生体模倣)のように、概念の抽象度を上げて転用する思考回路が鍛えられます。
鍛え方2. アイデア・マトリクスによる強制結合
獲得した知識やノウハウをカードやノートに箇条書きにし、ランダムに2つあるいは3つの概念を選び出して強制的に掛け合わせ、新しいサービスや課題の解決策を企画してみるアプローチです。 脳の遠隔連想のネットワークを意図的に刺激することで、他人が思いつかないような独創的な応用力・活用力が身につきます。
おわり
信頼性の高い情報を厳選する情報収集力と、専門を越えて知を広げ深める学習があって初めて、それらを柔軟に掛け合わせる応用力が生み出されます。そして、その応用によって生じた新たな疑問が、さらなる質の高い情報収集へと向かわせる持続的な知的探求のサイクルが完成します。
情報が爆発的に増え、過去の答えがすぐに陳腐化するAI時代においては、どのような知識を持っているか以上に
、「いかにして新しい知を獲得し続け、結びつけられるか」という姿勢こそが最強の武器になります。
まずは今日目にするニュースの一次ソースを調べてみたり、専門外の本を1冊手に取ってみたりすることから、自分のスキルの現在地を見つめ直し、できる工夫から試してみてくださいませー。