死ぬほど可愛いワンコを飼っております。ロングコートのチワワで、迎え入れてから5年が経つんですけど、まーかわいい。
ってなわけで今回は動物行動学や獣医学、さらには人間の公衆衛生学などの知見を統合して、犬の正しい育て方や、犬が人間の心身にもたらすメリットなんかをまとめてみようと思います。
今回は、犬と人間が歩んできた数万年の進化の歴史から、最新の科学的データまでを徹底的に解説します。この記事を読めば、愛犬の心理や具体的なしつけ、遊び、ケアの方法、 そして犬と暮らすことの真の価値が丸わかりになります。
叱るしつけは失敗する
まず多くの飼い主が直面するのが、愛犬の問題行動にどう対処すべきかという課題です。かつては、犬の祖先はオオカミだから人間がボスとして君臨し、力で従わせるべきだという優位性理論が信じられていた時代もありました。
しかし、近年の動物行動学の研究により、その常識は完全に覆されています。現代の科学的な結論は、おやつや褒め言葉を使う報酬ベースの方法の一択です。その根拠となる3つの重要な論文を見てみましょう。
叱るしつけは、犬を不安にさせる
ポルトガルのポルト大学などが発表した研究では、しつけ方法が犬の精神的な健康に与える影響を徹底的に調べてくれています。
嫌悪刺激とされるチョークチェーンや大声での叱責を使う訓練校と、報酬ベースの訓練校の犬を分析したところ、厳しく叱られた犬たちは、訓練中だけでなく日常的にもあくびをしたり、唇をなめたり、姿勢を低くしたりするような高いストレスサインを示しました。さらに、ストレスホルモンであるコルチゾールの濃度も急上昇していました。その後の認知テストでも、物事をネガティブにとらえる不安傾向が強いことが判明したのです。
体罰は攻撃性を生む
イギリスのブリストル大学による大規模調査では、言うことを聞かないからと、叩いたり、睨みつけたり、無理やり地面に組み伏せたりするような、罰や物理的な力を使ったしつけを受けている犬は、そうでない犬に比べて、見知らぬ人や家族に対して噛みつく、唸るなどの攻撃性を示すリスクが数倍高くなることが分かりました。力による支配はその場しのぎの服従を生むだけで、長期的には恐怖による防衛的な攻撃行動という深刻な問題行動を引き起こしてしまいます。
Applied Animal Behaviour Science 論文データソース
厳しくしないと覚えない!は迷信
おやつで釣るだけじゃ、いざという時に言うことを聞かないのではという疑問にも、科学は答えています。電子首輪で電気ショックを与えながら訓練された犬と、報酬ベースで育てられた犬を比較した研究があります。
結果として、報酬ベースの犬は、電子首輪を使った犬と同等か、それ以上のスピードで呼び戻しなどの指示を学習しました。恐怖や痛みを与えなくても、犬は十分に、むしろ効率よく学習できるってことです。
Frontiers in Veterinary Science 論文データソース
なぜ犬は褒めるしつけで伸びるのか?
では、なぜ犬はこれほどまでに人間の報酬に反応し、私たちの社会に溶け込めるのでしょうか。その秘密は、数万年にわたる人間と犬の共進化、つまりお互いに影響し合って進化した歴史に隠されています。
かつては人間がオオカミの子供を捕らえて飼い慣らしたと考えられていましたが、現在はオオカミの側から人間に近づいてきたという自己家畜化の説が有力です。
数万年前、人間のキャンプの周りにある生ゴミをあさるオオカミの中で、人間を怖がらず、攻撃性の低い社交的な個体が生き残りに有利となりました。遺伝子解析研究では、犬が人懐くなった原因として、人間のウィリアムズ症候群という極めて社交的になる遺伝子疾患と共通する遺伝子の変化が特定されています。犬は遺伝子レベルで人間が大好きになるよう進化してきたのです。かわいい。
さらに、チンパンジーなどの賢い動物でさえ、人間が指を差した先を見るのは苦手ですが、犬は教えられなくても人間が指を差した方向にあるものを理解できます。人間と暮らす中で、人間の視線やジェスチャーを読む能力が高い個体ほど、食べ物という報酬をもらえるチャンスが増え、生き残ってきたからです。
覚えるべき基本コマンドと誘導手順
: では次に、人間社会で犬が安全かつストレスなく暮らすために、マスターさせておきたい基本コマンドを紹介します。力でねじ伏せるのではなく、おやつやフードを握った手で犬の鼻先を優しくリードする誘導の手順を解説します。
望ましい体勢になった1秒以内に、よくできた、などの短い褒め言葉をかけ、おやつを与えるのが共通の鉄則です。
また、犬は人間の言葉の意味そのものではなく、音の響きや母音、音節の変化を聴き取っているため、コマンドは英語がオススメ。日本語のお座りは4つの音節があり、かつ日常会話で頻繁に使われる音ですが、英語のシットは短くはっきりとした破裂音を含み、日常会話とも混ざりにくいため、犬にとって周囲の雑音の中から聞き取りやすいというメリットがあります。ただし、重要なのは言葉の種類よりも、家族全員が同じ言葉とイントネーションで統一することなのでそちらを重視していただければ。
SIT(お座り)
興奮を抑え、落ち着かせるためのすべての基本となる姿勢です。
体勢への導き方: 犬の鼻先におやつを握った手を近づけます。その手を、犬の頭の真上から後方へ向かってゆっくりと移動させます。犬は鼻でおやつを追いかけようとして見上げるため、重心が後ろに移動し、自然とお尻が地面に下がります。お尻がついた瞬間に褒めておやつをあげます。
DOWN(伏せ)
お座りよりもさらにリラックスした状態を作り、ドッグカフェや乗り物内での長時間の待機を可能にします。
体勢への導き方: お座りの状態から始めます。おやつを握った手を犬の鼻先から、地面に向かって垂直にゆっくりと下ろします。手が地面についたら、今度は犬の足元から前方へ向かって、L字を描くように手を床に這わせて引き出します。犬はおやつを食べようと前足を前に伸ばし、胸を地面につけます。胸がついた瞬間に褒めておやつをあげます。
STAY(待て)
飛び出しによる交通事故や、来客への飛びつきを防ぐ、命を守るためのコマンドです。
体勢への導き方: お座りか伏せをさせた状態から始めます。飼い主の手のひらを犬の目の前に突き出すように見せ、ステイ、と声をかけます。最初はほんの1秒でも動かずにいられたら、すぐに褒めておやつをあげます。成功したら、時間を3秒、5秒と延ばし、次に距離を1歩、2歩と離れていきます。犬が動いてしまう前に飼い主が犬の元に戻って報酬をあげるのがコツです。
COME(おいで・呼び戻し)
リードが外れたときなど、緊急時に犬を自分の元へ確実に呼び寄せるための最も重要なコマンドです。
体勢への導き方: 最初のうちは、家の中で数歩離れた場所から、犬の名前やカム、という言葉を明るく高い声でかけながら、おやつを見せます。犬がこちらに向かって歩いてきたら、飼い主の体の正面まで引き寄せ、首輪や体に優しく触れながらおやつをあげます。戻ってきたら必ず良いことがあると印象づけるため、このコマンドの後に叱ることは絶対に避けてください。
DROP(ちょうだい・離せ)
落ちている危険なものを誤飲するのを防ぐほか、おもちゃの独占欲による攻撃性を防ぎます。
体勢への導き方: ロープなどのおもちゃで遊んでいる最中に行います。おもちゃを引っ張り合っている状態から、飼い主の側の手を完全に固定し、おもちゃの動きを止めます。同時にもう片方の手にさらに魅力的なおやつを握り、犬の鼻先に近づけます。犬がおやつの匂いを嗅ぐために口を開けておもちゃを離した瞬間に、ドロップ、と言葉をかけ、すぐにおやつをあげます。
CAGE IN(ハウス)
災害時の避難や、乗り物での移動、留守番の際にケージの中で落ち着いて過ごせるようにします。
体勢への導き方: おやつを握った手を犬の鼻先に見せ、そのままケージの奥へと手で誘導します。犬がケージの中に四肢すべてを入れた瞬間に、ハウス、と声をかけて褒め、追加のおやつをケージの中で与えます。ケージの中は安心できる快適な場所だと教えることが重要です。
本能を解放する狩りを模倣した遊び方
散歩だけでは犬の運動欲求や知能を満たすことはできません。犬の祖先が野生環境で行っていた狩猟行動は、追いかける、仕留める、引き裂く、運ぶという一連のステップで構成されています。家庭犬の遊びの中にこれらの要素を安全に取り入れることは、ストレス発散と問題行動の予防に直結します。
追いかける本能を満たすボール遊び
動くものを視覚で捉えて猛スピードで追いかける行動は、犬にとって最大の快感です。長い紐の先にぬいぐるみを取り付けたおもちゃを、地面に這わせるように不規則に素早く動かしてあげると、犬は野生の血を刺激されて喜びます。
テニスボールなどを使ったボール投げもこの欲求を満たしますが、注意が必要です。過度に行うと、関節への負担になるだけでなく、ストレスホルモンを過剰に分泌させて犬を常に興奮しやすい体質にするリスクがあるため、時間は1回10分程度にとどめるのが賢明です。
Human-Animal Interaction Journal 論文データソース
仕留めて引き裂く欲求を満たす引っ張り合い
獲物を口で捕らえ、左右に激しく頭を振って引き裂く行動も、犬の重要な本能です。丈夫なロープやおもちゃを使い、飼い主と犬で引っ張り合いをします。
かつては、人間に勝たせると犬が図に乗る、と言われましたが、これも現代では否定されておりまして、犬にロープを勝ち取らせる遊び方をしても、飼い主への服従心や関係性が悪化することはありません。むしろ、犬に勝たせてあげることで自信をつけさせ、遊びの満足度を高めることができます。ただし、歯が飼い主の手に当たったり、興奮しすぎたりしたときは、前述のドロップのコマンドで一度おもちゃを離させるルールを作り、オンとオフの切り替えを教えましょう。
究極の知力ゲームであるノーズワーク
狩りの始まりは常に匂いを追うことから始まります。犬の嗅覚は人間の数万倍から一億倍とも言われており、この驚異的な嗅覚を使った遊びがノーズワークです。部屋の中に隠したおやつを匂いで探させたり、知育玩具にフードを詰めて頭を使わせたりします。
研究によると、嗅覚を使った知的な遊びは、犬の心拍数を安定させ、ポジティブな感情を高める効果があることが分かっています。身体を激しく動かさないため、シニア犬でも安全に楽しめ、10分のノーズワークは30分の散歩に匹敵するほどの満足感を犬に与えます。
Applied Animal Behaviour Science 論文データソース
健康寿命を延ばす!科学的なデンタル&コートケア
続いて、愛犬と長く一緒に暮らすために欠かせない、身体のケアについてのアプローチです。
歯のケア:3日放置すると歯石になる
3歳以上の成犬の約8割が歯周病、またはその予備軍であると言われています。犬の口内はアルカリ性であるため、虫歯にはなりにくいものの、歯垢が歯石に変化するスピードが人間よりも圧倒的に早く、約3日しかかかりません。
歯周病が進行すると、細菌が血流に乗って心臓や腎臓などの臓器に悪影響を及ぼすことが獣医学的に証明されています。毎日の歯ブラシによるブラッシングがベストですが、難しい場合は、まず口の周りを触る練習から始め、歯にかけるタイプのジェルなどを活用して、段階的に慣れさせていきましょう。
Journal of Veterinary Dentistry 論文データソース
毛のケア:皮膚炎を防ぐブラッシング
毛並みを整えるブラッシングは、見た目を美しく保つだけでなく、皮膚の血行を促進し、古い毛を取り除くことで皮膚炎を予防するために必須です。力を入れず、犬が気持ちいいと感じる部位である首の周りや胸元から始め、ブラシは気持ちいいものという報酬の記憶を植え付けることが大切です。
犬と暮らすことが人間の心身にもたらすメリット
ここまで犬のためのしつけやケアについて書いてきましたが、適切な関係を築いて犬と暮らすことは、実は人間側の健康や寿命にも計り知れない恩恵をもたらすことがわかってますんで最後にそこら辺を見ていきましょう。
見つめ合うだけでストレスが激減する
日本の麻布大学などの研究チームが発表した論文では、人間と犬が見つめ合うと、お互いの脳内で愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌されることがわかっています。
犬が飼い主を見つめると、飼い主のオキシトシンが上昇します。愛おしくなって飼い主が犬を撫でたりブラッシングしたりすると、犬のオキシトシンがさらに上昇するという奇跡の循環が起こります。このオキシトシンには、ストレスホルモンであるコルチゾールを減少させ、人間の不安を和らげる効果があります。
心血管疾患による死亡リスクが低下する
犬と暮らすことの最も強固なエビデンスの一つが、心臓や血管の健康維持に関するものです。
スウェーデンの340万人以上を対象とした大規模研究では、犬を飼っている人は飼っていない人に比べて、全死亡リスクが20パーセント、心血管疾患による死亡リスクが23パーセント低いことが示されました。特に一人暮らしの世帯において、その恩恵が顕著でした。
また、2019年にアメリカ心臓協会の学会誌に掲載された、約380万人分のデータを統合した解析でも、犬の飼育は全体の死亡率を24パーセント減少させることが確認されています。犬の散歩に伴う日常的な有酸素運動の増加や、それによる血圧の改善が主な要因と考えられています。
Circulation 論文データソース(Kramerら, 2019)
孤独の解消と高齢者の認知症・虚弱の予防
犬の存在は、現代社会の大きな課題である社会的孤立を和らげ、高齢期の健康を守る強力な基盤になります。
国際的なコミュニティ調査において、犬の飼育は近隣住民とのコミュニケーションを誘発し、地域のつながりや信頼関係を向上させることが示されています。 さらに、東京都健康長寿医療センターによる国内の高齢者約1万人を対象とした調査では、犬を飼っている高齢者は、飼ったことがない人に比べて認知症の発症リスクが40パーセントも低いことが明らかになりました。定期的な犬の世話や散歩、それに伴う地域社会との関わりが、脳の認知機能を維持しているのです。また、身体活動量が維持されるため、運動器の衰えや虚弱な状態に陥るのを遅らせる効果も報告されています。
Preventive Medicine Reports 論文データソース(Taniguchiら, 2023)
まとめ
犬は人間と共進化をしてきた古くからの相棒で、その関係性は飼い主の心身に大きなメリットをもたらしてくれます。そんな大切なパートナーのためにも、報酬ベースの教育と、遊び、そして体のケアを取り入れてあげましょう。
まずは、以下のことから試してみてください。
1秒以内に褒める準備をする 愛犬がイタズラをしたときに大声で叱るのを一切やめてみてください。代わりに、静かに別の場所へ誘導するか、望ましい行動をした瞬間に、1秒以内におやつをあげて褒める習慣に変えましょう。これだけで愛犬のストレスホルモンは激減します。
1日10分、狩りの本能を満たす時間をスケジュールする いつもの散歩ルートをただ歩くだけでなく、帰宅後に5分間の引っ張り合いっこをしたり、部屋の中におやつを隠して探させるノーズワークを5分間行ったりしてみましょう。本能が満たされることで退屈による問題行動が目に見えて減っていきます。
ケアの時間を愛着形成のイベントにする 歯磨きやブラッシングを、義務感から無理やり行うのを卒業します。まずは優しく声をかけ、見つめ合いながら気持ちいい場所を撫でることから始めます。お互いの脳内にオキシトシンを分泌させ、絆を深める極上のスキンシップの時間へと変えていってください。
私は今日も思う存分いぬ吸いしながら一緒に寝ようと思います。