過度な敏感さのことをさすHSP」という言葉が知られて久しい昨今ですが、それ以外にも、次のような生きづらさを感じている人はいないでしょうか。
頭の中の思考の渦が一日中止まらず、夜になっても眠れない
感情の振れ幅が極端に大きく、周囲から大げさだと評される
常に知的で精神的な刺激を求めており、退屈な環境に強い息苦しさを覚える
これはあなたがモチベーション管理が下手なわけでも、ましてや社会不適合者なわけでもなく、脳の特性によるものかも知れません。これらの特徴は近年ギフテッド研究で注目されている概念で、オーバーエキサイタビリティ(OE:過度激動)と呼ばれています。
今回は、OEの提唱者であるポーランドの心理学者カジミェシュ・ドンブロフスキの研究や現代の過度激動研究をまとめたレビューを参考に、この生きづらさの原因であるオーバーエキサイタビリティについて見ていきたいと思います。
参照元:Positive Disintegration Archive
OEの5つのチャネル
このオーバーエキサイタビリティには5つのチャネルが存在することがわかっています。これらは生まれつき、どのチャネルが太いかという個性のグラデーションとして並列に存在しているもので、高知能と呼ばれる人たちの研究データでも、一般の人に比べてこれらのエネルギーが突出して高い傾向が確認されています。
自分がどのルートでエネルギーを過剰に駆動させているのか、あるいはあなたの身近な人がどこで苦しんでいるのか。5つのタイプの特徴と具体的なエピソードを整理して見てみましょう。
1. 心理運動的OE:身体的エネルギーの過駆動
脳の興奮やストレスが、中枢神経を経て直接身体の動きへと出力されてしまう状態です。とにかくエネルギーが物理的な行動として溢れ出すため、話すスピードが非常に速く、一方的に喋り続けてしまうことがあります。会話中に興奮してくると身振りが大きくなり、じっと座っていることが苦痛で部屋の中を歩き回りながら考え事をしたりしてしまうことも。貧乏ゆすりが止まらなかったり、喋りながらペンを何度も回し続けたりするのも特徴です。また、プレッシャーを感じると過食に走ったり、部屋の掃除を執拗に始めたりしてエネルギーを発散しようとします。
この特徴を持った人は学校の授業や会社の会議など、社会的な静粛や規律を求められる環境にいること自体が肉体的な苦痛になります。周囲からは落ち着きがない状態に見られがちですが、彼らは注意が散漫なのではなく、脳の過剰な電気信号を身体を動かすことで外に逃がさないと精神的に辛くなってしまうのです。
2. 感覚的OE:五感データの限界突破
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という五感から入ってくるあらゆる情報が、脳内で何倍にも増幅されて処理されてしまう状態です。
服のチクチクするタグや裏地の縫い目が気になったり、蛍光灯のかすかな音や、商業施設の眩しすぎる照明、他人の香水の匂いで頭痛がしてくるという過敏さが目立ちます。しかし一方で、素晴らしい音楽を聴いたとき、息をのむような美しい絵画や大自然に出会ったときなどは、言葉にならないほどの強烈な歓喜と深い没頭を経験します。
この特徴を持つ人は、満員電車や騒がしいオフィスなど、現代社会の雑音に身を置くだけで脳が情報過多を起こして泥のように疲弊します。また、不快を過剰に避けるあまり、自分が快感を得られる快適な環境、特定の音楽、あるいはカフェインやアルコールといった嗜好品への強い執着に繋がりやすいという脆さも抱えています。
3. 想像的OE:脳内現実の肥大化
イメージ、記憶、象徴を処理する脳の領域が活発に駆動する状態で、話すときにドラマチックな表現を好みます。子どもの頃から空想が大好きで、大人になっても退屈な日常のシーンに直面した瞬間、一瞬にして脳内で精緻なアニメや映画のような空想世界を構築して意識が現実から完全に離脱するマインドワンダリングという現象を頻繁に体験します。夜、寝ようと目を閉じると、最悪のトラブルの生々しいビジョンが勝手に浮かんできて怖くなることもあります。
この特徴を持つ人は、自分の脳内にある完璧で美しい理想世界と、目の前にある地味で不条理な現実世界とのギャップに耐えられなくなります。そのため、突発的な現実逃避に走ったり、周囲からは夢見がちで地に足がついていないなどと評価され、社会的な適応において摩擦が生じることがあります。
4. 知性的OE:終わりのない論理の希求
因果関係の解明、真理の追究、物事の論理的整合性に対する執着が止まらない状態で、親や教師が困るまで「なぜ」「どうして」を繰り返す質問魔です。貪欲な知識欲を持ち、興味を持った分野の膨大なデータを一晩中分析してそのシステムの仕組みを理解しようとしたり、ベッドに入っても、宇宙の果てはどうなっているのか、なぜあのビジネスモデルは成功したのか、といった思考のスイッチが切れず、毎晩のように深刻な入眠障害に悩まされることも。
この特徴を持つ人は、社会や人間関係に存在する矛盾や建前、古い慣習といった不条理を絶対にスルーできず、会社の「昔からこう決まっているから」という不合理な指示に猛烈なストレスを覚えます。さらに、他者の発言の論理的破綻が瞬時に見えてしまうため、正論で相手を完全に論破してしまい、コミュニティ内で批判的で冷酷な人間として孤立するリスクがあります。
5. 情緒的OE:感情ネットワークの過負荷
他者への共感システムと、自分の感情を認知する回路が常に最大出力で機能している状態で、映画や小説に感情移入しすぎて数日間引きずってしまうのは日常茶飯事。他人のちょっとしたため息や不機嫌な態度を察知してしまい、自分が何か怒らせることをしたのではと激しく動揺したり、一度愛着を持った友人や恋人、ペット、さらには思い出の場所に対しては強烈な結びつきと「守らなければ」という責任感を抱きます。常に「自分はこれでいいのか」と深い内省を繰り返すため、根源的な孤独感を抱えているケースも少なくありません。
この特徴を持つ人は、自分と他人の感情の境界線が曖昧すぎるため、テレビのニュースで悲しい事件を見るだけで自分が傷ついたかのように精神が摩耗します。感情のコントロールが非常に難しく、周囲からは情緒不安定で扱いづらい人と評価されがちです。本人もその激しさに耐えかねて、二次的に強い不安を併発しやすいという生きづらさを抱えています。
生きづらさの原因は社会システムとのギャップ
と、ここでOEとHSPの違いを整理しておくと、HSPが外からの刺激を敏感にキャッチする受動的な「感度」を主軸としているのに対し、オーバーエキサイタビリティは入ってきた刺激や自分の中から湧き上がる動機に対して脳や神経系が全力で反応し続けてしまう能動的な「強度」を特徴としています。
オーバーエキサイタビリティの持ち主は、コンパクトカーのボディにF1の爆音モンスターエンジンを積んでいる感じ。少しアクセルを踏んだだけで猛スピードで走り出すし、それが一般道であるなら事故は免れません。
このように、基本的に予測可能で、平均的で、コントロールしやすい人間を基準に設計されている多くの社会システムの中では、オーバーエキサイタビリティが放つ圧倒的なエネルギーやこだわりは「問題行動」や「わがまま」として処理されてしまいます。
その結果、本人の中に「なぜ私はみんなのように普通にできないんだろう」という強烈な呪縛が生まれます。なんとか社会に馴染もうと、アクセルを思い切り踏み込んでいる自らのエンジンに対して、同時に全力でブレーキをかけるような状態になるため、心の中で激しい自己嫌悪や体調不良を引き起こしてしまうのです。
F1エンジンを乗りこなすための4つのセルフケア
このような脳のフル稼働状態は、環境設計によって緩和することが可能です。その方法を4つ見てみましょう。
1. エネルギーの専用サーキットを固定する
生得的な気質である以上、エンジンの出力を落とすことは不可能です。それなら、エネルギーを一般道で爆発させないために、安全に消費し尽くすための専用サーキットを生活の中に意図的に作りましょう。
心理運動的: 日常的にキックボクシングやドラム、高強度のインターバルトレーニングなど、肉体の限界までパワーを吐き出す時間をスケジュールに組み込みます。
感覚的: ノイズキャンセリングイヤホンを使い、自宅には刺激のない静かな空間を確保して定期的に五感を休ませます。
想像的・知性的: 難解なプログラミング、専門書を読み漁っての論文執筆、小説やアートの創作活動など、脳に高負荷な課題をあえて与え、思考のエネルギーをそこで使い果たさせます。
2. オフではなくアイドリングを目指す
オーバーエキサイタビリティの脳は、寝る前などに「何も考えずにオフにしよう」とすればするほど、かえって反発して思考の暴走を始めます。必要なのは完全停止ではなく、出力を最小限にする「アイドリング状態」への移行です。
就寝前の1時間はスマホを置いて、あえて単調で適度に脳のリソースを消費する作業を行いましょう。例えば、難解な古典文学の読書、ルールが単純なパズルゲームの反復、一定のリズムで行う呼吸法などです。思考のルートをあえて1つに限定してあげることで、脳の回転速度を自然と落とすことができます。
3. 情緒的OEには感情の書き殴り
情緒的なエネルギーが溜まったときは「筆記開示(エクスプレッシブ・ライティング)」を試しましょう。これは心理学でストレス低減効果が実証されている方法で、ノートを開き、頭の中にある感情や不安、怒りを、言葉を選ばずにそのまま20分間書き殴ってみてください。脳内の作業記憶であるワーキングメモリをすべて紙の上に出すことで、主観的な感情の渦から一歩引くことができ、客観的な自己観察へと移行することができます。
4. 自らの状態を実況して人格から切り離す
自分の状態を、まるで他人のように客観的に実況してみましょう。「今、知性的エネルギーのチャネルが満タンになっていてオーバーヒートを起こしているな」というように言語化するのです。これは心理学で「外在化」と呼ばれるテクニックで、「あなたの人格がダメなのではなく、単に生まれ持った神経系の仕様が一時的に過剰駆動しているだけ」だと認識するだけで、自分を責める気持ちは軽くなります。
周囲にOEの人がいたら?
では今度は、友人、恋人、あるいは自分の子どもがこの圧倒的な激しさに振り回されているとき、周囲の人はどのように関わればお互いにラクになれるのでしょうか。3つのアプローチをお伝えします。
1. 「気にしすぎ」「落ち着いて」は禁句と知る
彼らが頭を抱えているときに、悪気なく「気にしなきゃいいじゃない」「もっと気楽にいこうよ」「落ち着いてよ」と言ってしまうのは全くの逆効果。これらは彼らの神経系の構造上、実現不可能な命令であるため、「やっぱり私は社会には馴染めないんだ」と孤立感を深める結果にしかなりません。特性を理解してあげることこそが、周りの人がしてやれる第一歩になるのです。
2. 感情の暴風雨に巻き込まれない
特に情緒的や知性的の人が爆発しているとき、周囲まで一緒になって感情的になったり、理詰めで反論したりするとお互いのエネルギーが衝突して大炎上します。周囲が取るべき態度は、北風ではなく太陽のような「穏やかな客観性」です。相手の言葉の激しさに巻き込まれず、一歩引いて静かに受け止めてあげましょう。あなたが落ち着きを保ち続けることが、相手の暴走を最も早く鎮める方法になります。その手段は何でもよく、その場から距離を置いて(離れて)もいいし、「今お互い感情的になっているから30分後にもう一度話し合おう」と切り出してもいいです。
3. 人格と気質を切り離してフィードバック
相手が正論で誰かを論破してしまったり、空想にふけっていたことでミスをしたときは、その人格を責めるのではなく、先ほどの気質と切り離して指摘してあげましょう。「あなたの言っていることは論理的には正しいけれど、今の言い方だと相手は傷ついちゃうよ」というように、特性を認めた上で、現実的な着地点をナビゲートしてあげるのが理想的な関係です。個人ではなく「行動」に対して、事実・感想・要望を伝えるとよいでしょう。
「あなたが大きな声をあげたから(事実)、私はとても怖くて悲しかった(感想)。もう少し落ち着いてお互いの意見を出し合って折衷案を探したいから、1時間後にまたこのことについて話し合う時間を設けるのはどう?(要望)」というように、相手を攻撃せず、お互いの意見を尊重し合える提案をすることを心がけます。
まとめ:OEは才能になる
この記事のまとめとして、最も大切な結論をお伝えします。あなたがこれまで抱えてきたその圧倒的な生きづらさは、あなたの根性や人格の欠陥ではなく、単なる「脳の特徴」です。
そしてこの特性は、環境設計次第で他者には真似できない圧倒的な「得意性」へと変わります。もしあなたがこのオーバーエキサイタビリティを自分の強みとして活かすことができれば、この特性を持っていない人に比べて、次のような桁違いの優位性を発揮することができます。
知性的・想像的優位性 他の人が退屈や限界を感じて思考を止めてしまう場面でも、24時間ノンストップでアイデアを生み出し、常識破りのクリエイティブなブレイクスルーや、圧倒的に深い専門性を誰よりも早く構築できる。
心理運動的優位性 普通の人なら疲弊して諦めてしまう高い目標に対しても、常人離れした行動量と爆発的なエネルギーで突進し、短期間で圧倒的な成果を叩き出せる。
情緒的・感覚的優位性 他の人が見落としてしまう微細な変化や他者の痛みを完璧に察知し、凡百の表現では到達できないほど人々の心を深く動かす芸術、あるいは組織を本質的に救う強力なリーダーシップや共感力を発揮できる。
大事なことは、高出力のF1エンジンが活きるサーキットを自分で構築し、乗りこなすためのスキルを身につけること。さすれば常人離れした優位性が発揮されること間違いなし。みんなでがんばりましょー!