現代人は海へ行け!ブルーセラピーの科学

宮古島に移住してからというもの、頻繁に海を見に行っております。なんせ海が家から近いもので晴れてる日は必ず散歩しにいっているんですが、このリラックス効果がハンパない。 で、ちょっと調べてみると水辺ってのは人を癒す効果が科学的にも示されてきてるみたい。歴史を振り返ればメソポタミアやエジプトなどの世界5大文明はすべて大河のほとりで誕生してるし、時間を遡ればまだ人類が野生のなかで生きていた原始の時代から、生きるために必須な水を確保し、獲物を集め、拠点を守るために私たちは常に水辺をホームとして生きてきてますよね。 つまり私たちの脳には何百万年もの進化の過程で「水がある環境=生存の確率が最も高い安全な場所」という記憶が遺伝子レベルで刻み込まれているのです。 

この安心感のメカニズムを医療やカウンセリングの現場に応用する動きは「ブルースペース介入(海洋療法)」と呼ばれておりまして、近年研究が進んでいる分野です。今回は、なぜ海に行くとこれほどまでに心が休まるのかという科学的な理由をはじめ、今の心の状態に合わせた最適な海での過ごし方、さらには近くに海がない人が都会にいながらその恩恵を日常に120%再現するための具体的なアプローチまでをみていきたいと思います。

現代は刺激が多すぎる

現代人が抱える慢性的な疲労の正体は筋肉の疲れではなく、脳が常に情報に対してアンテナを張っていることによる精神の疲労です。 都会の街並みを歩くだけで視界には無数の看板や信号が飛び込んできますし、スマホを開けば通知バッジが光りSNSには刺激的な言葉が並ぶ。これらはすべて脳に「強制的な注意」を強いる刺激になっていまして、入ってくる情報のうちどれを処理しどれを無視すべきかを判断しなければならない状況が続いていればそりゃ脳も疲れるわけです

 この脳の過労状態をリセットするのが海の持つ「注意回復理論(ART)」という仕組みです。 海の「寄せては返す波の動き」や「水平線のきらめき」は人間に緊張を強いない緩やかな刺激になり、脳のスイッチをオフにしたまま疲弊した注意力を劇的に回復させることが分かっています。 認知科学で「魅惑(Fascination)」と呼ばれるこの現象は、イギリスのエクセター大学などによる大規模な調査で緑の自然(森林)よりも青の自然(海や水辺)のほうが一貫してストレスホルモンを減少させ幸福感を高めるというデータが出ているほどです。

 【参考研究】 海などの水辺環境が森林よりも高いメンタル回復効果を持つことを示した欧州共同プロジェクト「BlueHealth」の大規模なメタ分析レビュー。 https://bluehealth2020.eu/

海のメリットはまだまだあるよ

海辺に身を置くブルーセラピーの凄みは景色による視覚や聴覚のリラックスだけにとどまりません。海水という物理的刺激が人間の自律神経を強制的に整える強力なスイッチになります。 特に人体に備わっている2つの防衛本能を利用したアプローチが強力で、

  1. 顔面への冷水刺激(潜水反射)
    人間が冷たい水の中に潜るとき脳は「酸素を無駄遣いするな!」という緊急命令を出します。これにより心拍数が一気に下がり内臓への血流がコントロールされる「潜水反射」という現象が起こります。 このスイッチは顔面(特に目の周りから鼻にかけて)が冷水に触れるだけでも作動するので、冷たい海水に触れた瞬間に心拍数が落ち着きパニックや不安による脳の過剰な興奮が強制終了されるのです。

  2. 肩甲骨の間への刺激(褐色脂肪細胞の活性化)
    首の後ろから肩甲骨の間には「褐色脂肪細胞」という脂肪を燃やすための細胞が多く存在します。ここに冷海水の刺激が伝わると脳は「体温を守るために熱を作れ!」と命令を下し、この防衛反応が身体の代謝を一気に引き上げ、体温調節機能や自律神経を強制的に覚醒させるのです。

目的ごとの海の過ごし方

海でのセラピー効果を最大化するためには、今のあなたの心の状態に合わせて「過ごし方」を選ぶ必要があります。

  • アクティブ介入(気分や活力を上げたいとき)
    ⇛「ビーチウォーキング」が最適です。適度な運動をしながら海辺の強い日光を浴びることで体内でビタミンDが合成されます。これはメンタルの安定を司る幸福ホルモン「セロトニン」の分泌を爆発的に促すブースターとなります。

  • パッシブ介入(不安が強く脳が疲れ果てているとき)
    ⇛ 砂浜にただ座って波の音を聞き水平線を眺めることに徹してください。波の音に含まれる「1/fゆらぎ」と呼ばれるリズムが脳波をリラックス状態(アルファ波)へと導き五感を海のゆらぎに委ねるだけで脳のオーバーヒートが収まります。

都会でも海のメリットを享受する方法

そうは言っても「すぐに海になんて行けない」って方も多いでしょう。そこで、 「脳の注意回復」「セロトニン分泌」「潜水反射と細胞刺激」というメカニズムを都会の真ん中にいながらその恩恵を日常に組み込む方法を見てみましょう。 常に脳がオーバーヒートしているあなたが今すぐ実行できる3つの代理行動を解説します。

  1. 公園の水辺で「擬似注意回復」
    週末は大きめの公園にある池や都市部を流れる川沿いのベンチへ行き、水の揺らぎや流れをじっと眺める時間を15分だけ作ってください。 水辺が近くにない場合は部屋の照明を落として目を閉じ、高音質な波の音(自然音アプリや動画)を部屋全体に流します。スマホの画面を見るのをやめ耳から「1/fゆらぎ」を取り込むだけで脳の強制的な注意モードは収まります。

  2. 朝イチの「セロトニン・ブースト」
    海辺の太陽光を再現するために、朝起きてから20分以内に外に出て15分から20分ほど直射日光を浴びます。 部屋の窓越しでは紫外線が遮断されメンタル回復に必要なビタミンDの合成やセロトニンの分泌が十分に促されません。ベランダに出る、あるいは近所を軽く散歩することで夜の睡眠の質を高めるメラトニンの原料が仕込まれ、体内時計が正確に回り始めます。

  3. 自宅のシャワーを使った「強制神経リセット」
    お風呂上がりの仕上げに冷水のシャワーをまず「顔面」に10秒から20秒ほど当てます。これによって潜水反射を起こし脳の興奮を鎮めます。 続いてシャワーを「首の後ろから肩甲骨の間」に向けて30秒ほど浴びせます。最初は冷たさにビビるかもですが、上がった後に血管が拡張し強烈なリラックス状態が訪れます。サウナの水風呂と同じ効果を自宅の浴室で完全に再現するアプローチです。

まとめ

私が日々感じている海の癒やし。それは脳への刺激が減ったことによるところが大きい、ということで海や川がない方も、ぜひ日常にブルースペースを採り入れてみたり、情報から一旦距離をおいてみたりしてはいかがでしょうか。

ブルースペース介入の研究はまだまだ発展途上で限界も多く、単純に海に行くだけでいいのか?メンタルが健全な人にも効果はあるのか?などはわかっていません。そのため海がもたらすメリットを分解して日常生活に少しずつ採り入れてみて状況を観察してみるのがいいと思います。 

とはいいつつも、海は畏敬の念も抱かせてくれますし、楽しむ目的でもぜひ一度は宮古島の海を見に来てほしいものですが。

都会で海のメリットを得るチェックリスト

最後に、ブルーセラピーを日常生活に取り入れるための行動をチェックリストにシておきます。よしなにどうぞ。

□ 週末、15分だけ近くの川沿いや公園の池をぼんやり眺める

□ 移動中はスマホを見ず、イヤホンで高音質な「波の音」を聴く

□ 朝起きて20分以内に外に出て、15分ほど直射日光を浴びる

□ 冷たい水を顔面に10〜20秒当てる(潜水反射)

□お風呂上がりに、冷水シャワーを首の後ろ・肩甲骨の間に30秒当てる