AIでアイデアの量産が可能になった昨今ですが、なーんか月並みな発想のものしかでないなーって印象を持たれる方は多いんじゃないでしょうか。それはAIの仕組み上仕方のないところで、なんせ大量のデータから確からしい確率の高いものが出力されているので、今までにない発想は人間にしか出来ないんですよね。
とは言え人間もなんの道標もなしに革新的なアイデアを思いつくのは難しい。ということで、アメリカのオートデスク社が誰でも同じように優れたアイデアを生み出せる仕組みを開発してくれていて(R)、ものすごくためになりますので、今日はそちらを書いていこうかと思います。
アイデアが世に広まる5つの段階
アメリカのシリコンバレーに拠点を持つオートデスクという会社は、建物の設計士や映画のクリエイターなど、ものづくりを行う多くのお客さんを支援していましたが、あるとき、お客さんから「どうすればもっと革新的なアイデアを作れますか」という質問が頻繁に寄せられるようになったそうな。
そこで、同社のイノベーション戦略担当だったビル・オコナー氏は、人類最初のイノベーションである350万年前の石の斧から現代の技術までをさかのぼり、大成功したアイデアに共通する仕組みを調査したらしい。その時調査した人類の発明の数はなんと1,000個。すげー。
具体的なイノベーション技法を見ていく前に、まずアイデアが世界に広まるまでには5つの段階があることを押さえておきましょう。
不可能:まだ誰も作ったことがない未開拓の段階
不実用:モノはあるけれど、一部の限られた人しか使えない段階
可能:広く普及して世界を大きく変える真のイノベーションの段階
期待される:めずらしくなくなり、あって当たり前だと思う段階
必須とされる:それがないと生活できないほど世界の一部になった段階
つまり、イノベーションとは頭の中の妄想ではなく、現実世界に新しいものや異なるものをしっかりと定着させて、まわりに大きな影響を与えられることが不可欠ってことですね。
歴史から学んだ5つのジャンルと75個の具体例
そして研究チームは、歴史上のイノベーションを分類するところから始めたらしい。すると、5つのジャンルになるみたい。それぞれの具体例とともに見てみましょう。
1. 技術や科学
日々の暮らしを物理的に便利にしたり、世界の仕組みを解き明かしたりした発見です。具体的には、
3Dプリンター
飛行機
人工臓器
カメラ
炭素14年代測定法
コンピューター
DNA
進化論、あるいはダーウィニズム
火
火薬
集積回路
インターネット
iPhone
電球
核分裂
人工衛星
半導体
蒸気機関
聴診器
電信
電話
X線
電池
方位磁針
放射能
冷蔵庫
人工腎臓
そろばん
算術
白内障手術
2. ビジネス
新しい価値を生み出し、社会の中でモノやサービスを循環させる仕組みです。
組立ライン
企業、あるいは株式会社
マイクロファイナンス
オープンイノベーション
不動産
チーズ
お金
Google
Facebook
3. 政治や社会
人々が安全に、そして公平に暮らすためのルールや社会の土台となるものです。
市民不服従
民主主義
宗教
トイレ
水道橋
農業
4. 考え方や哲学
人間の思考を整理し、情報を正しく伝えるための知的な道具です。
アルファベット
文字
ゼロ
カレンダー
5. クリエイティブや芸術
表現力を高め、人々の心や感性を豊かに揺さぶる試みです。
点字
橋
キュビスム
眼鏡
インク
ジャズ
紙
印刷機
U2の音楽
洞窟壁画
ロープ
槍
車輪
ガラス吹き
花火
機械式時計
イノベーションを生む7つの質問
ってなことで、膨大な歴史的イノベーションを精査し、それらが生まれた背景の共通点を洗い出して、7つの質問にまとめてくれております。
ここで、なぜ研究チームは質問形式にしたのかといいますと、人間は問いかけられると無意識に答えを探し始めますが、その言葉遣いによって脳の反応は劇的に変わるからです。「もっといい方法を探せ!」という命令調の問いかけは、脳に脅威や否定と受け取られて防御本能を刺激し、失敗を恐れて無難なアイデアしか出せなくなる「思考の萎縮」を招きます。一方で、「もっといい方法は何だろうか?」という探求調の問いかけは、現状を肯定した上で脳をワクワクする探索モードへと導き、心理的安全性のもとで自由な発想を促します。つまり、イノベーションに不可欠な主体性と斬新なアイデアを引き出すためには、脳を脅かす命令ではなく、好奇心を刺激して共に可能性を広げる「問いの形」でアプローチすることが極めて重要なんですね。
これはSEIQ(the Seven Essential Innovation Questions)と名付けられ、それぞれの頭文字をとってLUMIAMI(ルミアミ)とも呼ばれています。その内容はこんな感じ。
Look
What could we look at in a new way, or from a new perspective?
新たな視点で見ることは可能だろうか?Use
What could we use in a new way, or for the first time?
新しい方法で使うことはできるか?Move
What could we move, in time or space?
機能する時間や場所を変えることはできるだろうか?Interconnect
What could we interconnect in a new way, or for the first time?
何かを新たに結びつけることができるだろうか?Alter
What could we alter, in terms of design, performance, or packaging?
デザインや性能を変えることはできないだろうか?Make
What could we make, that is brand new?
“新しさ”を感じるものを加えられないだろうか?Imagine
What could we imagine, that would create a great experience for people?
まったく違う価値を想像できないだろうか?
これを1から順に問いかけていくことで、脳のリミッターを段階的に解放していくイメージです。まずは物の見方や使い方を変えていき、徐々に新しい価値を加える、想像するフェーズへと行く流れになるよう作られております。
あまりピンとこない方も多いと思うので、いくつか具体例を見てみましょう。
LOOK
スターバックス:コーヒーという「飲み物」ではなく、自宅でも職場でもない居心地の良い「サードプレイス(第3の場所)」を売るという高い視点で空間をデザインした。
RIZAP(ライザップ):一般的なジムが「通ってもらうこと」を目的にするのに対し、「結果が出なければ全額返金する(結果にコミットする)」という真逆の約束からスタートした。
訳ありグルメ:見た目が不揃い、傷があるという「マイナスの価値」を、「形は悪いけれど、安くて美味しくて生産者を直接応援できる」というプラスの価値に変えて大ヒットした。
USE
メルカリの「メルカリポスト」:全国に張り巡らされている「コンビニの店舗」や「既存の配送ルート」をそのまま活用し、梱包した荷物をポストに投函するだけで発送できる仕組みを作った。
セブン銀行:立派な店舗を構える代わりに、全国の「セブン-イレブンのATM」を窓口に代用することで、コストを抑えて24時間いつでも手数料安く使える銀行を作った。
Amazonの「ワンクリック購入」:買い物カゴに入れる、住所を確認する、決済方法を選ぶといった面倒な購入手続きをすべて排除し、ボタン一発で注文が完了するようにした。
MOVE
回転寿司:ビールの製造工場などで使われていた「ベルトコンベア」の仕組みを、お寿司をお客さんの席までスムーズに運ぶためのシステムとして飲食店に持ち込んだ。
丸亀製麺(オープンキッチン):厨房を奥に隠さず、お客さんの目の前でうどんを茹で、天ぷらを揚げるプロセスを丸見えにすることで、圧倒的な「安心感」と「美味しそうな体験」を作った。
サトウの切り餅:お米を研いで、蒸して、つくという何時間もかかるお餅づくりのプロセスを、レンジで「たった1分でつきたてが食べられる」という超高速体験に変えた。
INTERCONNECT
スマートフォン(iPhone):それまで別々だった「携帯電話」「音楽プレイヤー(iPod)」「インターネット端末」を美しく1つに合体させ、世界をガラリと変えた。
Uber Eats:お腹が空いた「お客さん」、料理を作る「飲食店」、そして街を走る「配達パートナー」をアプリのGPSネットワークで繋ぎ、超高速な出前システムを完成させた。
ユニクロ×一流デザイナー:安くて高品質なベーシック服を作る「ユニクロ」と、パリコレ等で活躍する「世界の一流デザイナー」がタッグを組み、誰もが手の届くハイセンスな日常着を作った。
ALTER
ユニクロのカシミヤセーター:かつてはデパートで数万円する高級品だったカシミヤを、独自の調達ルートによって数千円で「誰もが普段着として着られるもの」に変えた。
アタック ZERO(ワンハンドプッシュ):ボトルのフタを開けて計量スプーンで測るという面倒な動作を、片手でトリガーを「カチッと引くだけで1回分が出る」スプレー型のデザインに変更した。
フリクションボール:ボールペンは一度書いたら消せないという常識を覆し、ペンの後ろのラバーでこするだけで「きれいにインクが消える」という圧倒的な実用性を実現した。
MAKE
ホットペッパービューティーのネット予約:営業時間内に電話をかけて空き状況を聞くプロセスを無くし、真夜中のベッドの中からでも「空いている時間が一目でわかり、即予約できる」プロセスを作った。
サントリーのプレミアム・モルツ:ビールをただの「喉越しを楽しむ日常の飲み物」から、「頑張った自分へのご褒美」や「週末のプチ贅沢」という、自分を労うための新しい意味に定義し直した。
ハズキルーペ:おしゃれな老眼鏡を作るのではなく、「手元の小さな文字や、細かな作業がとにかく大きくはっきり見える」という、拡大鏡としての機能だけに特化して大ヒットした。
IMAGINE
Duolingo(語学学習アプリ):毎日机に向かって単語を覚えるツラい英語の勉強を、スマホでクイズを解くように「5分のゲーム感覚」で楽しく、簡単に続けられる形にした。
ダイソンのコードレス掃除機:掃除機の最大のストレスだった「コードが届かなくてコンセントを差し替える手間」や「家具に引っかかるイライラ」を、強力なコードレスにすることで完全に無くした。
ペヤング やきそば(超超超大盛):1人では食べきれない「1日分のカロリーを超える規格外のサイズ」を本気で販売し、SNSで大ウケして多くの若者がこぞって買うお祭り商品になった。
つづく
ということで、人類の歴史的イノベーションから学ぶ、良いアイデアを出すための7つの質問でした。なにか奇抜なアイデアを欲しているときはこのルミアミを最初から順番に問いかけていくのはアリ。
しかし、この質問集は、抽象的なため、なかなかアイデアがポンポン出る人はいないはず。これらはツールボックスに常備しておくのはいいものの、実用的なものとしては一段具体的なものが必要。ということで、そこも研究チームは考えてくれておりますので、次回は実践編として、アイデアを出す流れと、実際に行動に移すまでのステップを見ていきたいと思いまーっす。